4年3組リポーター刑事
結城 森士
[午前6:49 都内・浅野宅]
白いTシャツ、細身の皮のジャケットにサングラス。口元にマジックで書いたワイルドな無精ひげ。嫌味にならない程度の自然なウルフカット。目覚めるとすぐに鏡の前に立ち、腰に手を当てきっかり斜め45度の角度からウィンクを決める。浅野啓二は今日も朝からパーフェクトダンディ啓二だった。彼はその個性的ないでたちから、富山第五小学校のお昼休みTV放送の名物リポーターとして学内の視聴者の間で話題になりつつある新進気鋭の若手である。
「ふぅ、やっぱこの角度だよな」
腰に手を当てて45度の角度で牛乳を飲み干す。
「啓二!牛乳パックに口つけて飲むの止めなさいって言ってるでしょ!今日という今日は許さないわよ!!」
「もう飲んじゃったもん!!」
「関係ないわよ!あ、待ちなさいコラ!」
啓二は母親に捕まるより早くトイレに逃げ込んだ。
[午前7:32 都内・浅野宅]
トイレの前で浅野家長男の浩市が今にも泣きそうな声で叫ぶ
「おい啓二!いい加減に出ろよ!マジで!!おい!」
トイレのドアをドンドンとたたくも、反応なし。
[午前8:02 都内・浅野宅]
「ぅおおおおおおお啓二〜〜〜〜〜!!!!!」
(2分後、浩市は母に連れられて奇妙なコサックダンスをしながら隣の家の便所に駆け込む)
[午前8:27 都内・富山第五小学校]
「おっはよー」
「あ、啓ちゃんおはよー」
啓二は陽気に4年3組の教室に入っていく。右目は赤く腫れ上がり、鼻には血に染まったティッシュがねじ込まれていた。
「ど、どうしたの啓ちゃん…」
「いや、トイレから出たら兄ちゃんにいきなり殴られてさー!マジうちの兄ちゃんハンパねぇから〜」
「えー!なんでなんで!?」
「むしゃくしゃしてたんだと思うよ〜!」
「啓ちゃんのお兄ちゃんって怖い人なんだね!」
「まぁ〜ねぇ〜〜〜。でもまぁ喧嘩は俺の方が強いんだけどねぇへっへへ」
「うわぁ啓ちゃんって強いのね!かぁっこいいいいい」
「えっへっへっへ」
[午前8:28 都内・浅野宅]
その頃浩市は中学生にもなって隣の家でおもらしをしてしまったことで、人生に絶望していた。
「………俺…今日………学校…休むわ…」
「あ…うッうん!まぁッ、………………うん」
励まそうとして掛ける言葉が思い浮かばず、共にどん底に落ちていく母親。
[午前8:30 都内・富山第五小学校]
啓二は、おそらく一生忘れることのできない屈辱を味わったであろう兄のことなどすっかり忘れ、昼休み突撃レポートの作戦を練り始めていた。
「今日は体育の谷村美和子先生の生着替えに突撃しようかなぁ〜」
ノートとペンを取り出し、スケジュールと質問内容をメモし始める。
「おはよう啓一、お。やってるじゃん」
現れたのは小学4年生にしては長身の菊池悠馬。キリッと整った眉毛、酸いも甘いもかぎ分けたような深い眼差し。常に微笑を絶やさない口元。悠馬は今日も朝から菊池・パーフェクトジェントルメン・悠馬だった。通称、ランチタイムブレイカーというあだ名を持った凄腕のカメラマンである。カメラワークの巧みさにおいては彼の右に出るものしかいないと噂され、彼の映像で強かに酔い、吐いてしまった生徒は数知れない。
未完