「冬のある日」 (リレー小説・三題噺)
佐藤犀星


■形式
 ・リレー小説
 ・三題噺

■題目
 ・こたつ
 ・ゲームボーイアドバンス
 ・丸めた新聞紙

■参加者
 佐藤、波栖、モリ

■登場人物
 ・主人公
 ・グランシス・G・ルド




『冬のある日』


何かが狂い始めていた。電池の切れかけた時計の秒針のように、刻むべき時間を刻めない、もどかしい感覚。
寒い。冬とはいえ、身体的な寒さともまた違う、妙な寒気だった。
夜中に一人でホラー映画を見たのが悪かったのか。俺は枕元にあったゲームボーイアドバンスをやって気を紛らわすことにした。(佐藤・1回目)

「ふぅ・・・」俺は溜息をついた。と、同時に妙に背筋が寒くなる。
 よし。炬燵いこ。俺は炬燵に入ることにした。
 ラスボスが倒せない・・・。俺は、ゲームの電源を切り、新聞を見ることにした。人生諦めが大切だよな、うん。・・・自問自答を繰り返す高校3年、どうなんだ。
ふっと、黒い影がかさっと動く。俺は、一瞬にして手元にあった新聞紙を丸めた。(波栖・1回目)

 思わず叫びそうになった。歩けばじゃり、じゃり、と煎餅や何やらのカスを踏む汚い部屋だ。言葉にしたくもない害虫や新種のきのこが育っていてもおかしくはない。
 しばらく待っても、新聞紙を握りしめた俺の耳に届くのは時計の針が休まず歩む音だけだ。でも、なんだ…この違和感は。
 受験のせいだろうか。大好きなゲームは何もかも取りあげられて、手元に残ったのは古い携帯機だけ。根を詰めすぎたのかもしれない。すべて勉強のせいだと思うと腹が立ってきて、俺は乱暴にこたつ布団を頭からかぶった。
 そのときだった。
「なんだこいつは!?」(モリ・回目)

「グランシス・G・ルド。それが俺のコードネームだ」
 コタツの中からくぐもった男の声がした。とりあえず握っていた新聞紙でコタツを思いっきり叩いてみた。俗に言う威嚇作戦だ。
 奇声を上げて飛び出してきたのは哀れなほど怯えた表情の外人だった。新聞紙を構えると両手を挙げた。全身黒いスーツをまとっているが、地球のものとは思えないほどの光沢を放っている。
「いったい、いつからコタツに潜んでいたんだ…?」
「言えんな…」
「何の目的で俺の家に…?」
「強いて言えば、心地よかったからだ」(佐藤・2回目)

「お前、馬鹿だろ?」
「ばかとはどういう食べ物を指すのだ?出来れば詳しく教えてくれたまえ」
「・・・もういいよ、不法入国・不法侵入者。出ていけ」
 俺はグランシスを外に出そうとした。しかし、グランシスはなかなか動いてくれない。
「ここは居心地がいい。指令ではここの破壊だったのだが・・・やむをえん。私は此処に滞在しよう」
「冗談じゃない。出て行け」
「冗談とは、(以下略)」
 ・・・どうも、こいつは地球の奴じゃないらしい。話を聞いて行くうちに、この炬燵から“G・Fロイド・グライシスト星”への道が開かれたということが分かった。・・・わけが分からない。
「此処に滞在の許可がおりぬのなら、私の星にこい」
「はああああ?」
「さ、いこうではないか」
 ・・・・こんなのってありかよ。
 気がつくと、俺はなんたら星にいた。(波栖・2回目)

「おい、聞いてるのか! こんなのってありかよ!」
 抵抗する間もなく鉄の塊の中に押し込まれると、俺はすぐに、こうしてわめく以外の自由を奪われた。そこは見たこともない不思議な空間で、何十人もの黒いスーツが蠢いていた。いや、違う。あれはそう……まるでこれから戦争でもするような……。

「司令、捕虜が何か申しております」
「ほうっておけ。翻訳機は中尉に持たせたものだけだ。彼はよくやってくれたが……今や、我らがあのような辺境に割ける人員も資材も限られておる」
 黙りこむと、すべての手足を拘束された俺を、まるで汚いものでも見るように一瞥した。なぜかそれがわかった。
「覇者たる我らを知らず、いや、ろくに星々に手も届かぬ、このような害虫もどきの風体では、な」
「 はっ。まさしく害虫。小官の故郷では悪徳高利貸しよりも忌み嫌われておりました!」
「そうだろうな。この外貌とあっては、此度の出征に異を唱える者などおらんだろう。こいつさえ見せれば議会の爺どもも黙らざるを……」
 ……あいつらは何を言っているんだ。わからない。グランシスとは違う連中なのか? 俺は騙されたのか?わからない、何も。どうしてこんなことになったのか。俺は普通の受験生で、いつものように寝るはずだったのに。

気づかぬうちに、幾つかの手足をこすりあわせていた。その音が耳障りだったのか、見張りの男が苛立たしげに格子を殴りつけた。
「もうすぐ着く。おとなしくしておけ!」
なんだ。どこへ行くというんだ。俺の星は。地球はどこに行ったんだ!?
俺の戸惑いを嘲笑うかのように、見張りの男が顔を寄せてきた。
「中尉から聞いたんだが、お前等も地球だなんて名付けてるらしいじゃねえか。害虫の分際で、お笑いだぜ」
 何かとんでもないことになったのはわかった。いや、俺が、この俺がとんでもないことをしてしまったのか!

「おい、見ろよ」
 そのとき、見張りの男が少年のように弾んだ声を出した。指差したほうを見る。そこに輝いていたのは。
 薄汚れた黒茶色の大気の底に沈んだ、俺たちの星とはまるで違う──青くしたたるような水の惑星だった。(モリ・2回目)






散文(批評随筆小説等) 「冬のある日」 (リレー小説・三題噺) Copyright 佐藤犀星 2009-01-11 03:50:23
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