冬とかげろう
木立 悟







何処へゆく何処を向いても冬の日に無数の星のなかのかげろう



読み仮名は誰のためでもあらずしてただ自らの崩れし証



細く在るからだすべてに陽を浴びる幽かな声さえ熱のかげろう



息の根も無音も無いまま在るいのち外なる揺らぎ内なる鏡



ひかり喰みひかりを纏い動かないひかりの殻に混じるかげろう



狼を追い払いまた請い願い野には野のみの足跡ぞ棲む



手のひらの裏の手のひら知らずして全の手のひら語るに落ちぬ



つながりもつながり無きも同じこと常に怒りの渦に討たれて



夜の火を咬み砕いては撒き散らす片刃の陰を滑るかげろう



羊からこぼれる経血ふくみゆく羊飼いの短い無限



明け方の月の歪みを聴きながらおまえの胎を荒らすけだもの



揺らぎから鏡からただ離れゆく無数のひとつ緑かげろう



















短歌 冬とかげろう Copyright 木立 悟 2008-12-02 21:24:09
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