生まれ変わり
ふるる

弟は人に触られるのが怖かった。触られると電気のようなものが走るし、よくないものがうつる気がしていた。ただ、兄だけは平気だった。
弟が足をくじいて一人では不自由した時、兄は黙って弟の支えとなってやった。
「なんでかな。兄さんは嫌じゃない。」弟はある時不思議そうに漏らした。
兄は考え込んだ。他人との接触のあの嫌がりよう。あれでは恋人はおろか結婚もままならぬ。
そんな時分、兄はある小話を耳にした。前世で添い遂げられなかった恋人同士は、生まれ変わった時にそれと分かるよう、約束をかわした相手以外には触れられぬのだと。
その話を、兄は素直に心にしまった。そういことも、あるかも知れぬ。再び男女で生まれ変わるよりも、兄弟として生まれ変わった方がよかったのだろうか。
兄弟ならば、嫉妬に狂うことも、結ばれぬ苦しみに身をかきむしることもない。
ある日、弟は高熱を出して寝込んだ。苦しげに眠り続ける弟の額に手をやって、兄はつぶやく。
「せっかく会えたんだ、先に死ぬなよ。」
自分たちは、一生独身であるかもしれぬと、兄はぼんやり思う。
隠してはいるが、兄自身も、弟以外の人間に触れることはたまらなく嫌なのだ。


散文(批評随筆小説等) 生まれ変わり Copyright ふるる 2008-11-20 20:16:13
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