もうすぐ10時半だった
そらのうらがわ

ねえ、ユキ
最後にユキの足音を聞いたのは、
3週間と4日前の日曜日。
吉祥寺の小道から井の頭通りに出る信号のところだったね
小田急のバス、大勢の人、なにかよくわからない街の音。

もうすぐ10時半だった

月曜日、火曜日、水曜日。
足音が聞こえない都会の真ん中で、
僕は足音を殺していつもの部屋にいる。
第1週、第2週、第3週。
足跡も残らない、できそこないの大理石の床の上で
足音を再生して、また、再生して、またまた、再生して、
そして静かな部屋の椅子に腰掛けて、ただ明日の足音を待ってる

ねえ、ユキの足音を聞きたいよ
ねえ、ユキの足音を聞きたいよ

走ってる足音
怒ってる足音
いらいらしている足音
うろうろしている足音
笑ってる足音
暇つぶししてる足音

どこを歩いていても、ユキの足音が聞こえるよ
バスが走っても、山手線がやってきても、
キャバクラの呼び込みも、オペラハウスの正面玄関も。

砂浜に埋もれたり
国道沿いでカモメ?
非常階段、電信柱

ユキの足音を聞かせてくれよ
ユキの足音を聞かせておくれよ
また一緒に坂道を登ろうよ。

ユキの足音を聞かせておくれよ!



自由詩 もうすぐ10時半だった Copyright そらのうらがわ 2008-11-12 22:56:11
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