黄身
カンチェルスキス






 俺はグレープフルーツジュースを
 飲み干す。
 頭上の空に半分の月が
 まぬけに浮かび上がっていて
 横を振り向くと
 夕日が海に沈もうとしていた。
 グレープフルーツジュース。
 半分の月。
 夕日。
 鋭い二等辺三角形。
 俺は満足した。




 駅を越えた。いつもの交差点だった。
 信号を待った。
 向かいの居酒屋の二階席の窓
 女が働いてるのが見えた。
 宴会客の箸をテーブルに並べていた。
 並べ終えると、小さく頷きながら
 何度も指で数を確認した。
 その下を、スーパーの袋を左手に下げた
 老婆が歩いてきて
 居酒屋の入り口のちょっとした段になってるところに
 腰をかけた。
 右手に徳用の焼酎のペットボトルを持っていた。
 俺が左を振り向くと
 黒のネグリジェのようなざっくりしたワンピースを着た中年女が
 薄汚い雑種の犬を連れて歩いてきた。
 そして俺の右には
 生理がはじまったぐらいの自転車のガキが
 二人ガムを噛みながら
 信号を待っていた。
 それから斜向かいの餃子の王将で
 フロアマネージャーが客にしきりに
 頭を下げ
 車はびゅんびゅん走り
 老婆はものすごくリラックスして
 腰かけて
 居酒屋の女は箸の数を
 数え直していた。



 信号が青に変わる。
 なぜだか知らないが絶望感いっぱいの俺が
 武富士のポケットティッシュで
 ジーンズの後ろポケットをふくらませ
 横断歩道を渡ってゆく。
 先頭のマーク?がまず俺を追い越し
 続いてフルフェイスの原付が
 追い越し
 それから自転車のガキが追い越し
 俺は焼酎の老婆とすれ違い
 新しくできた回転寿司屋は
 パチンコ屋の死角になっているから
 遅かれ早かれ潰れるだろう
 居酒屋の女の姿はもう見えなくなっていて
 自転車のガキの姿は
 あっという間に暗闇の奥に消えていった。




 畳屋の前で伸びをした黒猫の
 眼とぶつかった。
 変電所の前で
 卵が一個
 真っ二つに割れて
 黄身が飛び出していた。
 まだ崩れてなかった。




 


自由詩 黄身 Copyright カンチェルスキス 2004-08-04 11:59:12
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