ジェラルミン・キス
錯春




最近空を見たんだけども、いくつもの、ちらちら光るモノを久しぶりに見たよ
それらは俺の見ていない時間でも、ずっと光っているらしい
そんなこと、そんな素敵なことを、信じられるわけねーだろ
光り輝くモノはいつだって、
拒まないかわりに冷たい手触りばかり残して ねぇ
ロックシンガーが、俺の尊敬するアメリカのシンガーが
あいつらは輝くばかりで近づこうとしないって 嘆いてた
当時付き合ってた女がそれを罵倒してね
んで別れた
ああそんな話じゃないっけ?
ロックミュージシャンは憤ることはあっても嘆きゃしないって
でも俺には嘆きに聴こえたんだ


(すっかり汗をかいている、グラスの珈琲。頼んだスクランブルエッグチーズトーストはまだ来ない)


とりあえず落ち着きな
こんな寒空の下そんな汗だくになってあんな顔しないで
最近、俺、明太子とカモミールティーに手を出したんだ
酒が旨くって、酒が、旨くって
公園に昔小さなパイナップルの香りのする雑草が沢山咲いてて
BB弾くらいの花を指先ですり潰して遊んだよ
いい匂いがするからって
その気配だけの為に
あんな残酷なこと平気でさ ねえ

(煙草が火をつけられたままフィルターぎりぎりまで燃えて灰殻になってぶら下がっている)

感傷的な話はやめようか
いくらでも出てくるから
最近はどーだい
めっきりおとなしくなって
ぶっちゃけ ね
怒るのも疲れるんだ
ああ
ぶっちゃけ、る、なんて言葉は大仰過ぎるな
もう若くないんだよ
つまりはねそゆことなのよ

(不意にジェラルミンの手触りが蘇る。よりにもよって寒い季節に限って。唇が覚えてる。あのとき)

あのとき俺はいったい何にキスしたんだろう
つめたいシーツの隙間に挟まるのが好きで
でもさ 冷たい人間の皮膚って なんでこんなに寂しいのかって
ずっと目をそらしてきたのに両手でこすってもいくらこすっても
温まらない指先を、映画の猿真似で、ひとつのポケットに突っ込んで
いっちょまえに 切なくなっちゃって
でも俺はオシャレな、BARとか、そんなん知らんくて
結局すぐにモーテルってこと
ゼブラ柄の室内に1本のバラが指してあった
白いバラで 美しくて
俺がそのモーテルに入る前から、部屋の電気を点けるまえから
バラは咲いていたんだ
信じられるかい そんな素敵なこと
悲観的なことばかり考えていられるほど 俺は暇じゃないけど
自分だけが不完全って いったい誰が
誰が決めた

(煙草、どうだい 吸うかい 
トーストは来なかったね
すること無いけどいかなくちゃ
ジェラルミンの肌触りで ポケットの中に ずっとしまってある 
ろくなもんは無いけど、そんなもんしかないけど)

空の下はいつだって ジェラルミンの感触
屋根が無い場所は 苦手で だって 俺らはずっと 飛散して
キスしていいかい? なんて
せめて君の
しけもくをくれよ
少し酔ってるんだ
カモミールよりもカールズバーグを買いに行こう
俺の宝物見せたげるから

(ポケットの中にはカチカチになったミントガム)

悲観的な話をしてるわけじゃないさ
ただ世の中にこぼれてる 君が見逃してる ことを
信じられないだけ さ


自由詩 ジェラルミン・キス Copyright 錯春 2008-11-03 17:00:31
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