ミンミンゼミ(百蟲譜30)
佐々宝砂

早稲田にも
青山にもなれなかった
予備校の街で
私はその年の夏を過ごした。

現役生のフリしたまま
講義を受けて
教室を出ると
ミンミンゼミの大合唱。

ミンミンゼミは
ミンミンと鳴くから
ミンミンゼミだ。

しかしその年の夏
私は何者でもなかった。
鳴き声さえも持っていなかった。



(未完詩集『百蟲譜』より)


自由詩 ミンミンゼミ(百蟲譜30) Copyright 佐々宝砂 2004-08-04 03:34:07
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