湖ゆきのバス
佐野権太

娘とふたり
バスに揺られている

おまえが置き去りにした
ウサギの手さげ袋は
そのままバスに乗って
湖近くの営業所まで
運ばれたらしい

忘れ物はぜんぶ
そこへ運ばれてしまうのだ
もしかしたら
どこかへ失くした
カエルのかさや
クマのすたんぷなんかも
あるかもな
(ほんとう?

ああ
父さんも
大人になるまでに
ずいぶんといろんなものを
失くしたよ
大人になってからもね
(あるといいね

景色がぼんやり流れている
西日に洗われた
おまえの髪が
やさしい色をしている
それは、忘れてほしくない

ほら、見ろよ
あそこが湖だ
ちいさく光っているだろう


自由詩 湖ゆきのバス Copyright 佐野権太 2008-10-29 14:02:09
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家族の肖像