透明人間
皆月 零胤

優しい光が降り注ぐ
穏やかに晴れた休日の午後は
微風に吹かれながら
静かに死にたいと思う

毎日が死に続けていて
こころはこんなにも穢れているのに
姿は透明のままで誰の瞳にも映らない

優しさはそんなこころにも届くけど
差し伸べてくれる手を
ボクは握り返さないだろう

このままビルの隙間に落ちたところで
死体さえ見つからないだろう

誰もが平等に姿の見えない暗闇の世界で
息を吸って言葉を吐いているけど
はじめから死体だったような気がする

見えないボクは見える文字になって
哀しい顔で幸せなフリをしてみたりするけど
そんな気持ちが見える人にわかるものか

透明なボクの瞳は何も映さないのに
感情は発生して行く先を探し始める
でもいつもどこかの隙間で失くしてしまう

はじめからなかったような
そんな気さえする
ボクの姿のように

せめて言葉だけは届いて欲しいと思う
いつだって

青空の下で発見されることもなく
ボクはゆっくりと風化し続けても
土にもなれないと思う
何の役にも立たない人間
いや人間ですらないのかもしれない
ボクはきっとただの言葉だ

だから
せめて言葉だけは届いて欲しいと思う
いつだって
いつだって


自由詩 透明人間 Copyright 皆月 零胤 2008-10-18 12:00:04
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