スランプの天使
佐々宝砂

1.

もうどうしよーもなくスランプなのよッ。
ああどうしたらいーのかしら、夜までにひとつ
歌つくんなくちゃ怒られちゃう。
あたしこれでもけっこう買われてんのよう、
まあうちんとこの姫は歌ヘタだからね、
あたしがいなきゃあんなにモテるわけないんだけどさッ。
でもスランプなのよね、困ったなあ、なに書こう……

 恋しきは灯火消えて残り香の……

ああこんなんじゃだめよッ、つまんないのにしかなんないわ。
困ったなあ、困ったなあ、なんとかでっちあげなくちゃ。


2.

バレンタインの詩もつくったし。母の日用の詩もつくったし。
父の日のやつもなんとかこなした。
で、次はなんだって?
ガイ・フォークス用の詩だって?
おい、僕はこれまで15年もこの仕事やってるけど、
ガイ・フォークスに詩入りのグリーティング・カードなんて、
まるできいたことないよ、そんなことやるのははじめてだ。

 恋しいのは灯りを消した部屋にただようきみの香水……

いやこんなの、全然ガイ・フォークスじゃないぞ。
何を書いてるんだ僕は。困ったな。でも仕事はこなさなくては……


3.

A子先生はよくあんなに増産するわよね、すごいよね、
なんて感心してる場合じゃないでしょう。
〆切はとーっくに過ぎてるんですよ、先生。
もうなんでもいいですからさささっと描いちゃって下さいよ。
いつもみたいのでいいですよ、いつものイラストポエム、
それなりに好評なんですから。ほらたとえば、

 灯りを消した部室 せいたかのっぽのあのひとの汗のにおい……

とかなんとか、そんなんでいいじゃないですか。
そんなの書いてそこに野球部の部室かなんか描いて下さいよう。


4.

スランプなんですよ、もう千年も前からそうなんです。
いっつも同じよーな台詞しか出てこないんです。
困りました。どうしましょう、ミューズさま。


5.

困ったって言われてもねえ……
おまえは創作の天使といってもスランプの天使だからねえ。
まあ安心しておいでよ。
いつも同じ台詞でいいのだよ、
それがスランプの天使のお得意のわざなのだからね。






2001.06.11


自由詩 スランプの天使 Copyright 佐々宝砂 2004-08-01 03:30:51
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
Light Epics