裁判所へ行こうよ?
猫のひたい撫でるたま子
わたしは見習い弁護士、に扮した三鷹の焼き鳥屋の店員。借り物のスーツに100円ショップのピンバッチをつける。
今日はある裁判の判決を見にやってきた。
被告人は、36歳中国人男性。痴漢容疑をかけられている。わたしは同じ車両に乗り合わせていたため、前回の反対尋問で証言をした。
「私は本を読んでいたのでよく見ていませんでしたが、被告は両手に荷物を持っていたので痴漢はしていないと思います。ハイ、多分。」
「本を読んでいたのに、荷物を持っていたのがどうして分かるのですか?」
「ハイ、乗り込むときに荷物がぶつかったのでその時に見たと思います。」
「では車内で見たわけではないんですね?証言者ははっきり答えてください。」
「ハイ、痴漢をする度胸があるようには見えませんでした!」
「でも、女性車両だったんですよね?おかしいとは思いませんでしたか?」
「ハイ、女性車両とか男性車両とかは意識して乗っていなかったもので。」
「異論!証言者は覚醒していません。」
「ハイ?私は朝からお酒は飲みませんけど?」
「トントン、証言者は下がってよし。」
わたしの意見が反映されたのか、審議を見にやってきたものの、専門用語ばかりで聴き取れない。聴講席横の法廷画家は、被害者女性のスカートからはみ出したおみ足を丹念に描いている。
「トントン、判決、同罪!」
それを聞いたとたん、記者たちは一斉に外へ駆け出した。ざわつく会場、本物の新米弁護士がひそひそ話をしている。
「また同罪だね。」「あの裁判官は最近いつも同罪だね。」「あの中国人絶対痴漢やったよね!そういう顔してるもんねー。」「同罪だからどっちでもいいよね。スタバ行こうよー。」
「被告人、女性車両には乗らないこと、日本語を読めるように学校へ行くことを命ずる。被害者、朝からミニスカートをはいてプラプラしないことを命ずる。以上、閉廷!」
裁判所を出てあくびをひとつ。記者を捕まえて、「本当はやってたんですよー」と教え、目隠し写真Aさんとしてピースでにっこり、一万円をせびり取る。財布には31万円。中国人の弁護士からお金を貰って頼まれた証言だった。
本当は、歌舞伎町で朝まで飲んだ帰りに、わたしがつい触ったんだけど、まあいいか。
一ヶ月バイトを休んで、中国で遊んで暮らそう。