A-29

平坦な田畑の中に小高い高台があってそこに十前後の墓がある。家内の実家の墓はそのひとつ。お隣りは戦没者の墓。

何某の長男、何某 海軍軍属 昭和十七年五月十三日 南太平洋にて戦死 二十三歳 といった内容のことが墓石に刻まれている。

その反対面には次男 何某 海軍二等兵曹 昭和二十年八月一日 どこそこにて戦死 十九歳 と。

この墓地へ来る度に「そうだ。兄弟して戦死してるんだ。こちら。」と思い出し、しばらくじっとその墓を見詰めては、感慨にふける。そしてじきに忘れ、またやって来てはもの思いに浸る。

この兄弟は間違いなく六十数年前の世界戦争で命を落としていて、その直後には核兵器の使用があり、それから六十年が経過し現在がある。不思議なくらいのほほんとしてある。少なくとも墓の前はのほほんとしていて、やぶ蚊が飛んでいるだけだ。

では、これから六十年後はどうなっているんだろう。環境問題はどう帰結するんだろう。この国の農林水産はどう変わるんだろう。

墓の前には、やはり不思議なくらいのほほんとした空気とやぶ蚊の飛来があるんだろうか。その空気を吸い、蚊に血を吸われしてみたいものだ。


散文(批評随筆小説等)Copyright A-29 2008-09-30 01:17:25
notebook Home 戻る