俺の満員電車
日雇いくん◆hiyatQ6h0c
俺はもてない。
だから彼女などいない。
しかし女が欲しくてたまらない。
金がないので風俗もいけない。
住んでいるのが地方都市なので、2000円でピンサロ行けるなどと言う記事を見るとうらやましくてしかたがない。
手持ちは全部で5000円ほどだ。
これじゃナンパしたところで何も出来はしない。
もっともそんな度胸などみじんもない。
そんな俺だが、せめて女のぬくもりだけでもと思い、今日は早起きして満員電車に乗ってみた。
普段は疲れるだけなのでわざわざこんな時間帯の電車には乗らないが、今は休みなので疲れてきたらいつでも降りられる。楽なものだ。
と、そう思ったのが間違いだった。
事件は起きた。
女の多そうな車両に乗りこむと、たちまち車内にたちこめるフェロモンなのかなんなのかよくわからない甘くむっとする匂いに圧倒された。
そこですぐ自分の愚かさに気がつき、電車を降りればよかったのだ。
たちまち俺は勃起した。
だが、うっかり股間など押し付けると何をされるかわからない。
しかも今日は、押さえが利くジーパンではなく、うっかりジャージで乗りこんでしまった。
俺はポケットに手をつっこみ、その上から必死に勃起を押さえた。
すると、その押さえる手が俺のイチモツに必然的に触れ、ジャージの感触とも相まって非常に気持ちよくなってきた。
ああ。
亀頭からカリにかけてうまい感じでこすれ合うところがたまらなく、いい。
しかし、ここで発射し、ジャージをべとべとにするわけにもいかない。
匂いだって充満するだろう。
そうなったら他の乗客に何をされるかわかったものではない。
理性を働かせ、なんとかしようとするのだが、焦れば焦るほど快感は高まっていく。
降りなくては。
停車駅の案内が流れると叫んだ。
「すいませーん、降ります!」
手をあげ、降りようとした。
しかし、満員なのでなかなか降車口に行く事ができない。
「すいませーん! 通してくださーい!」
しかも、少しづつ人を避けて通るたび、股間が強くこすれ、快感が意思とは正反対に高まっていく。
発射しそうだ。
「すいませーん!」
やっとの思いで降車口にたどり着いた。
しかし、間に合わなかった。
「うっ! ……」
降りる寸前で、発射してしまったのだ。
一瞬、めまいに似たような感覚が俺を襲った。
そこで油断してしまった。
降車口は俺の身体がすり抜ける直前で、無情にも楽園への道を閉ざしてしまったのだ。
「あああ……」
絶望的だった。
だが、俺のそんな気分とは反対に、イチモツはネバネバした液体を次から次へと吐き出していく。
俺は気分が悪いふりをして、とっさにその場でしゃがみこんだ。
次の駅まで、匂いだけでも押さえ込まなくてはならない。
匂いが車内に漂い、騒ぎになるのではないかと思うと気が気ではなかった。
時間が長く感じる。
周りの多くの乗客が、俺を見ていた。
気分が悪くてしゃがんでいると思われているのだろう。
しゃがみこむ行為は、あんがい目立つものだ。
しかも満員だ。不自然に違いない。
「あのー、大丈夫ですか?」
一人の、女性客が声を掛けてきた。
こんな時だけ、何故か知らないが女は俺に声を掛けてくる。
やめてくれ!
俺はこの時、本当に独りになりたかった。
まったくいたたまれない気分だった。
「あー……少し休めば……大丈夫ですので……」
必死に俺は、いかにも気分の悪そうな顔をして答える。
早く去って欲しかった。
だが満員なので女性客も俺も動く事はできない。
やり過ごさなければ。
答えたあとはひたすら黙し、時が過ぎるのを待つ事にした。
「まもなくー○×駅ー○×駅」
助かった。
もうすぐ出られる。
さいわい気づかれてもいないようだった。
たとえ一人二人が気づいていたとしても、とにかくこの電車から降りればあとはどうにかなるだろう。
ほどなく電車は止まり、降車口が開いた。
だが、今度は反対側の降車口が開き、俺を苦しめようとする。
「お、降りまーす!」
俺は、さっきよりも強引に人をおしのけ降りようとした。
先ほどの発射で余韻がのこっていたので、イチモツが何かに当たるたび感じすぎて苦しい。
「あ、うっ……」
俺は歯を食いしばりながらそれをこらえ、人を押しのけ進んだ。
すると、また降車口が閉まりそうになった。俺は焦った。
「どりゃあああああああああああああ!」
必死な俺は叫ぶと、人もかまわず飛び上がった。
すると、閉まろうとする電車のドアが足にかかりそうになった。
「うわああああああああああ」
俺の足に触れたドアは、勢いでその足を弾き飛ばし、俺をホームをと叩きつけた。
「ぎゃっ」
そのまま俺はホームのコンクリートにはね返され、何メートルか転がった。
「いってー」
電車はそんな俺に目もくれないように、淡々と次駅へ走り去っていった。
「ああ、助かった……」
体は痛かったが、俺の心は安堵感でいっぱいになった。
安堵感のあまりしばらく放心していると、突如声が聞こえた。
「だ、大丈夫ですか?」
なんと、さっきの女性客だった。
よく見ると、いかにも真面目そうな、ボランティアでもやっていそうな感じの、固い身持ちっぽい女だった。
「え、あ……」
俺はとっさの事で、何も言葉が出てこない。
「大丈夫ですか!」
言いながら、女が心配顔で近づいてきた。
やめてくれ!
叫びたかったが、とっさの事で声が出ない。
もうダメか。
観念した俺は、そのまま気を失った。
気がつくと、俺は病院にいた。
看護師に聞いてみると、どうやら俺は女性客の通報で運ばれてきたようだった。
ふとジャージを見ると股間がすっかりガビガビになっていた。
ここに来るまで大勢の人に見られたのかと思うと、とても恥ずかしかった。
幸い軽いケガだけだったので、簡単な検査をするとそのまま家に帰る事にした。
手持ちの金は病院代で消えてしまい、しかも足りなかったので、後で残額を払わなければならなくなった。
何故かこれが一番ショックだった。
「やれやれ、変な事を考えるんじゃなかったな……」
つぶやくと、病院を出た。
ガビガビになったジャージが股間に当たる。
ガサガサした感触が、うまい感じでこすれる。
また気持ちよくなりそうになった。
どうしたものか。
俺は歩こうにも歩けず、しばし固まった。