忘刻
A道化




夕立でもぎ取れた蝉が
丁度今乾き切りました
私はアスファルトに足を揃えました
腹をかえし対の肢を合わせたその亡骸は
無音の言祝ぎでした


夕立のあと再び燃えていた日は、結局落ち
マンホールの絵柄の薄い水面では
我に返った夕立が、薄く、薄く、省みるように
自分で壊した夕日の残りを
立ち止まった私の影を
辛うじて、今もまだ想っていました


私には、ひとつのものを眺めすぎる癖がるのに
私には、ひとつのものを眺め過ぎる癖があったのに
夕立のあと再び燃えていた夕日が結局は落ち
幾度目かの夕立のあとの幾つ目かの夕日が落ちた今
突然子供の群れの走り出した理由が
私には、少しもわからないのでした


夕立に洗われた蝉は
既にもう乾き切っていました
亡骸は無音の言祝ぎでした
余りにも静かである為
虫取り網はもう蝉のことを忘れたでしょう



2004.7.28.


自由詩 忘刻 Copyright A道化 2004-07-28 05:49:10
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