三本足のカラス
皆月 零胤

その初老の男は
いつも存在と不存在の狭間にいて
人の目には映ったり映らなかったりする

日焼けした肌に
極端な自由と不自由を抱えて
真昼の路上に横たわっている
伸ばし放題の髪で

側に置かれている荷物は
一見大荷物のようだが
それが持ち物のすべてだとすれば
少ないほうだ


いつもカラスのようにゴミ箱をあさり
杖をついてゆっくり歩けば
人の流れも別れ中州ができて
そこに取り残されてしまう

いつかの夜
理不尽な中学生が
男にバットを振り下ろすかもしれない
未来の自分がそうなっているという
そんな可能性すら考えもせずに


男は目を開けると
その虚ろな瞳に美しい青空を映し
通り過ぎていく足音に耳を澄ませる

そして何かを思い出したかのように
微かに透明な笑顔を浮かべた


自由詩 三本足のカラス Copyright 皆月 零胤 2008-08-28 15:00:22
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