午後、水飲み場で
yozo

( somewhere



両手をポケットにつっこんで歩く
暑いのに
もちろん握りしめたてのひらの筋には
さっき飲んだポカリが速攻溢れだして
素足のスニーカの時みたいにぐっちゃりしてる
左にはシオシオになったメモ
インクジェットでプリントしたから
もしかしたらもう文字なんか読めない
でも覚えてるから
脱色した細い眉に力いれ緩い坂をあがる
冗談じゃない
それだけは阻止する



( somewhere



鐘の音が今日は2回足りない
余韻の響く石畳を蹴飛ばすようにして歩く
石灰化で白く溶けだした筋が
数百年とやら守り抜いた城の街を
十数年のうちに駄目にするらしい
よく知らない国の観光客にはそういうのはありがたい
冗談みたいだけど
おかげで給料はあがったパソコンも買った
送信者の名前は無かったが多分あれはキミだ
コースターの裏に書いたアドレス覚えるの大変だった
指定された場所は縁結びで有名なとこだし
ロマンチストのキミらしい
まにあうかな
心臓の音が今日は2倍くらい



( somewhere



終わったって
大丈夫だからひとりでもって
勝手に解釈してたみたいだけど
そういうの滑稽ていうんだ
なのになんで今さら
そんなに訴えてたかな
まだ。って
目あったら離せなくなった
そっちだって
無視すればいーのに
狭いけど店なんか他にもあるし
なのになんで
そんでメール?
冗談じゃない
ご丁寧に名前隠して
アンタ以外誰がいんの
なのになんで走ってんだろう
こんなクソ暑いのがいけない
あのバーの名前がいけない
どーしよう
もうこんなのいやなのに



( somewhere



カンニングなんかしてないし
誰かに好かれるような顔じゃない
そう言って不貞腐れ気味に尖らす唇に
呆れたっぽくするのも限界かもしんない
脅しまがいのメールを相談される位置だけじゃ
もたねーわ
今年の夏が勝負なのは受験ばかりだと侮ってた自分を
かかか。軽く笑い散らす
指定のない時刻は放課後だろうと
よく見える屋上に陣取って何分経ったんだろう
後悔。大きく空に突き上げた拳で漢字書く
ああタバコ吸いてぇ
制服着てなきゃこんなトコで見張ってなんかいない
しまりの悪い蛇口
水滴の落ちる音が中庭に耳障りに響く
チャイムと夕焼け
唇の赤



( somewhere



ここからは抜け出せないの
髪を綺麗に結ってヒールを細くアップ
お仕事なの
微笑みと知性を引き立たせる口紅チョイス
ボスのありがとうが私の勲章
午後からは重役会議とニュープロジェクトの披露パーティ
どこで知ったの
会社のアドレスならまだしもプライベートメイル
ハッキングなら事件だわ
どうしよう
午後なんてムリよ
パーティーにはドレスもちろん大人だから
そんな格好で走れないわ
多分間に合わないキャンセル
抜け出せないの
わかって
貴方ならきっと許してくれるけれど
誰なの



( nobody



その日送信された奇妙なメールのことがあちこちを回りはじめるには少し時間がかかった。
それは、送信者が空欄だったという共通点があるにもかかわらず、受け取った者をほぼ、それぞれの場所へと向かわせ、彼等がそのことに疑問を抱くまでにかかった時間と比例している。のちに現在まで、その理由として指摘されているのは、タイトルが一様に受信者達に強く覚えのあるものだったからではないか?という程度のことだけだ。なぜなら、後手とはいえ究明のためにも‘本文を書き込んでください”と掲示板がいくつか各所で立ち上がりすぐにそれぞれはリンクされていったけれど、具体的例としてメールの内容が世間にさらされる事はなかったからだ。
ただ、曖昧な、送信者への怒りや待ってたのにというウワゴトのような書き込みは、依然日を追うごとに増えている。
受信した時の戸惑いは
一瞬でゆらいで耐えがたい熱を持つらしい
その症状が噂になって人々の耳に届いたのと気象史上稀に見る猛暑に警鐘がなりだしたのは、きしくも同じ日の午後の出来事だった。
そして、ここ数日は、嘘でもいいからと、そのメールの到着を待ちわびる症候群が確認されだしている。異常気象のおさまる気配は衛星写真で見る限り一向にないらしい。













未詩・独白 午後、水飲み場で Copyright yozo 2004-07-23 23:18:42
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