水のための夜
あおば

                  080805



生えるためには水が要ると
ステンレスのボールが喚く
サルビアの花の写真は
今からでも間に合いそうに
麗しく艶やかで瑞々しくて
来年なんて言葉は聞きたくは
ありません

言いたげで
開封した種が零れるボールの底に
10粒ほどのサルビアの種子
乾いた顔して落ち着かない
水を注いで宥めてみたが
表面に浮いたままで
落ち着こうともしない
明るいところは嫌なのか
落ち着けない
落ち着かず興奮を秘めたまま
乾いたままに浮かんだままに
このまま外に出かけたら
どうなるのでしょう
疑問を残して電気が消えた
朝になるとボールの底には
温和しそうに並んでる
行儀のよいサルビアの種子
固まってもう動きたくありませんと
言いたそう
外は明るいし
太陽は焼けるように輝いている
もうワタクシ達の居るところはありません
このまま水の底で眠りたい
そんなことを言ってんじゃないかと
考える
外は明るくて
今から芽を出すには眩しすぎて
今から芽を出して育つには遅すぎて
花が咲くのは夏が過ぎて
秋の長雨に気分がむしゃくしゃして
あたまからは水蒸気がもやもやと立ち昇る
10月の語感に相応しくない季節に花を咲かせるのだが
ステンレスのボールの底にへばり付いて動こうともしない
サルビアの種を見ないふりして垣根の縁にまき散らす
運が良ければ芽が出て茎が伸びて花が咲き
だれかの目につくこともあるだろう
そもそも種の袋ごと
我が家の郵便受けに投げ込まれたときから
こうなることは覚悟していたのだから
一切の苦情は受け付けないつもりですが
もし
この暑い夏を乗り切ることが出来たら
またどこかでお会いいたしましょう

無責任の塊が咲かせた花を眺めどこまでも
沈んでゆきたいと思うこともありますので




初出 「poenique」の「即興ゴルコンダ」タイトルは嘉村奈緒さん



自由詩 水のための夜 Copyright あおば 2008-08-05 08:36:07
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