著しい退化
吉田ぐんじょう


めざめたら
体中が赤の水玉だらけになっていた
なんだか痒くて仕方がない
そのうえ頭皮にまで広がってるらしく
頭をかきむしらないといられない

体中かきむしっていたら
いつしかわたしは皮膚病の犬となり
ひよひよひよひよ
毛をまき散らしながら
自分の尾っぽを追いかけている

けして手に入れられないもの
けれども追わずにはいられないもの
ああ希望とは理想とは
こういうものであったのか

分かった
と叫んだつもりだったけど
喉から漏れたのは悲しげな遠吠え


立って冷蔵庫の前へ行く
この頃は冷凍庫の霜ばかり食べている
暑さの為だと思うのだけれど
ラーメンとか牛丼とかそういうような
生きていると実感するようなものが食べられない
霜は独特の味がする
空気と風と埃の味だ
自分がどうして生きているのか
分からなくなるような味である


机の前に座って手紙を書いている
手が震えてうまく書けない
罫線から文字がはみ出して
呪いの手紙のようになってしまう
仕方がないので封筒に向けて
手紙ありがとうとか喋り
声が逃げないうちにすぐ封をして
切手を貼って投函したりしているが
なぜか返事の返事はこない
声が悪いからだろうか
空に向かって発声練習をしてみるけれど
なんだかどこにも届かないみたいだ
空が果てしない


美しい風景を見て何か書こうと思った
早速ノートを膝に広げて
削っておいたHBの鉛筆を走らせる

直線を引っ張り曲線を描き
ようやく出来上がったものを見てみたら
そこに広がっていたのは数字だった
何も脈絡もない数字の羅列
87397871231354682103212314564
消しごむで消して書き直したが
何度やっても数字しか書けない

それ以降わたしのノートは全頁
数字で埋め尽くされるようになった
1213215648778829852258164165416

足し算はとても早くなったし
数字もゴシック体のように正確に書けるようになったけれど
なんだかやっぱり満たされない
溜息をついてノートを閉じる
57852134897651352415867563467856
白い花が咲いている
12124547987882828541328719999363



自由詩 著しい退化 Copyright 吉田ぐんじょう 2008-07-31 08:23:46縦
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