創書日和「音」 夕立
ゆうと


夕立は、ぼくのことなんか忘れてる。
低い声で、かみなりが鳴いている。
さっきまで明るかった空が、とたんに表情を変えた。
なんだろう、よくない雰囲気がする。
まなざしが暗い、落ち込んでしまった人のようだ。
天と地の間を、風が掻き回している。
ざわざわ、ざわざわ、と、胸騒ぎみたいな音。
ぼくの心を乱していく。
雨が、音をたてて降ってきた。
ぴかり、と空が光る。
ほぼ同時に、空がうなる。
あああ、ぼくは自転車に乗って、アルバイトへ行くはずだったのに。
夕立は、ぼくのことなんか忘れてる。
そう簡単には止んでくれないようだ。
閃光、のあとに、轟音。
雨は降り続いている。
憂鬱になる、一歩手前くらいで、外はだんだん静かになってきた。
かみなりが遠ざかっていくにつれて、雨は数を減らしていく。
夕立は、ぼくに気づいてくれたみたいだ。
どうやら、ぼくは自転車に乗って、アルバイトへ行けるらしい。
よかった、と思ったと同時に、夏が来たのだと感じた。
つかの間の出来事だった。




自由詩 創書日和「音」 夕立 Copyright ゆうと 2008-07-12 15:18:56
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