第2章 変わったお友達
箱犬

『遅いぞ、リトル!』

もちろん、ブックルック・ペンシルバッカス・リトル・ランブルフィッシュは風のように速く走りましたし、

本当はそんなに遅くは無かったのですが、ブックルック・ペンシルバッカス・リトル・ランブルフィッシュは

シントリンの言葉に酷くがっかりしたのです。なにせ、自分は小さなエルフだと信じ込んでいるのですから

いくら風のように足を動かしたところでみんなより早く広場に行けっこないのです。…もちろん本当はブック

ルック・ペンシルバッカス・リトル・ランブルフィッシュ(もう結構!!)が影のようなものに見とれていた

からなのでしょうが、小さなエルフはそうは思いません。


『あぁ、何で僕の足はカプラのように長く綺麗じゃないんだろう』


やっぱりブックルック・ペンシルバッカス・リトル・ランブルフィッシュはどこまでもブックルック・ペンシル

バッカス・リトル・ランブルフィッシュなのです。その口から小さくつぶやいた言葉を誰にも聞かれないように

手で蓋をしてあたりを見回すと、みんなはとっくに広場の真ん中にあるうず高いを見たままあんぐりと口を空け

てぼんやりしています。


くるくるでふわふわした髪が肩まで伸びた女の子、フロゥライも猫のような緑色の瞳を大きく開けて見つめて

いたし、大きなめがねをかけたとび色の髪の男の子、ブルゥムンの口は魚のそれとそっくりです。みんなどう

したというのでしょう。ブックルック・ペンシルバッカス・リトル・ランブルフィッシュもみんなにつられて

みんなが見たほうを見てみると、さぁ、どうなったでしょうか。口は魚のようになったでしょうか、猫のまなこ

になったでしょうか。いいえ、ブックルック・ペンシルバッカス・リトル・ランブルフィッシュは「なあんだ」

の顔になったのです。そこに居たのは、来るときに見たあの影だったのです。


『なぁんだ、あの影じゃないか』


みんなが何故そんなにびっくりしているのか、小さなエルフにはさっぱりわからなかったのです。その時でした

目はあの影を見たまま、突然シントリンがびっくりするようなことを言い出したのです。


『俺、あの影見たことあるぜ』


その言葉を口切にみんながみんな口を開きました。


『僕も見たことあるぞ』

ずり落ちためがねを人差し指で上げながらブルゥムンはせかせかといいました。


『私も見たことあるわ、ベットの横にいたもの!』


フロゥライは少しふるえながらいいました。


シントリンが話し始めました。


『俺が夕日が落ちる前まで遊んでいたときだけどよ、(シントリンの頬は真っ赤です)俺、長くなった影が

おもしろくって小枝を振りながら踊っていたんだ。そうしたら、なんか妙なんだ。俺一人で踊っているのに

影が一人多いんだぜ!びっくりして俺踊るの止めたんだけど、その影はまだ躍り続けててさ、俺怖くて

逃げ出しちまったんだよ。』


ブルゥムンが負けじと話し始めました。


『僕はもっと恐ろしかったよ。(ブルゥムンは青くなっています)僕が一人で大好きなカプラの本を読んで

いたら部屋の隅にそれこそぬっと現れてさ。僕は本をほおりだして逃げ出しちゃったぐらいさ。大好きな

カプラの本なのに、だよ!』


フロゥライが半ば金切り声で叫びました。


『あたなたたちはまだいいわ!(フロゥライは泣きそうです)私なんか、夜寝ていたらあの影がベットの

横に立ってなにかきみの悪い呪いの言葉をかけてきたのよ!』


そのおかげで私のねぐせがいつまでたっても治らなかったんだから!とフロゥライが大声を上げました

とたんに広場に集まったエルフたちは叫び声をあげながらいっせいに逃げ出していったのです!

それはあたりまえの事でした。エルフが大声を出すときはみんなに危険だ!と伝えなければいけない

時だけなんです。そんなに簡単にエルフは大声を出しません。人間の子供とは違うんです。


でも、逃げ出すときはエルフだろうがゴブリンだろうがたいした違いはありませんよね。わぁわぁ、きゃあ

きゃあ、その騒がしいことといったらありませんでした。ブックルック・ペンシルバッカス・リトル・ランブル

フィッシュはあまりのうるささに口を塞いでいた手を耳においやって、目をぎゅっとつぶりました。


かしこい皆さんならわかるでしょう。そう、フロゥライの言っていることは間違いでした。影は呪いの言葉

なんて言っていません。ただの一言、ほんの一言だけこういったのです


『友達になってよ』


ああ、そこでフロゥライを笑ってはいけませんよ。あなたも月の夜、うっすらと光る月明かりの下、見た

ことも無い影があなたに話しかけたりしたらちゃんとお話できますか?できる、というひねくれものの子

もいるかもしれませんが、それはあなただけかもしれません。いえ、じつはもう一人だけ確実に、そんな

ことはわけないさと言う子供がいました。だれでしょうか?もうわかりますよね。


そう、あの小さなブックルック・ペンシルバッカス・リトル・ランブルフィッシュだったのです。





散文(批評随筆小説等) 第2章 変わったお友達 Copyright 箱犬 2008-07-08 01:36:46
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