風がつよい日
石畑由紀子

風がとてもつよいので
窓をしめて
新聞紙のうえで爪を切る

あれから、
手のひらを丸めるくせがついて
そのくせ伸びるのは
はやくて

パチン、パチンパチ、ン、
的をはずれ
飛び散る


ふふ、なんべんやっても
上手くいかないの



私が
私のまま在ることに
うなずいてくれる場所は
あるだろうか


突然のノックの音に
ためらいながらドアを開けると
あたためすぎていた部屋に、まだ
すこしつめたい四月が
にぎやかに吹き込んできて

よびごえ、わらいごえ、
部屋いっぱいにひろがって
いつかの体育館のエコーみたい、ゆれる、満水の
人のなか

ちいさく
私の形ができあがる


真んなかを
守るために
指先はみんなつめたい


まるくなった爪を
まるくかくしながら
やわらかくわらってドアを
閉めて

 (バイバイ、


散らかった爪
掻いてしまった、あのひとの
皮膚


どうして
ひとりなんだろう


風がとてもつよい日に






自由詩 風がつよい日 Copyright 石畑由紀子 2008-07-02 01:07:31
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