田村隆一「人が星になるまで」を読んで 〜在りし日の詩人からの語りかけ〜 
服部 剛

 今月の「ぽえとりー劇場」も筋書きの無い物語が続き 
唄歌いのゲスト・杉本拓郎君の後は「在りし日の詩人」
の面影が夜風に吹かれて訪れたようです。 

 先日僕が鎌倉文学館の「田村隆一展」に行き、もらっ
てきた図録的な新聞?を、今回は18時に来ていた参加
者で抽選したらrabbitfighterさんとBJだいちさんに当
たったのですが「ぽえとりー劇場」の常連で僕もお世話
になってる二人だったというのは不思議な必然性を感じ
ます。 

 黒い小さな舞台の上に立ち、その詩の新聞?を広げた
らびさんは田村隆一の「人が星になるまで」というとて
も優れた詩を朗読してくれました。 


   1

   どんな精巧なエンジンつきの玩具だって 
   森
   の魔力にはかなわない 

   燃えろ 森の精霊たち 
   森の子ども 森の娘 
   燃えろ 人の心 


 この「1」を聴いているとBen'sCafeが「詩の森」と
化し(燃えろ 森の精霊たち)というのが「ぽえとりー
劇場」に集う詩を愛する仲間達へ今は亡き詩人が密かに
呼びかけているような、不思議な感覚になります。 


   2 
 
   老いたる男の顔は 
   岩そのもの 神の手で刻まれた皺 

   若い男のなめらかな顔は 
   未知なるものに魅きつけられる 
   不安と恍惚の光にあふれ 


 この「若者の顔」のイメージも、詩の夜に集う人々と
イメージが重なります。 


   4 

      〜中略〜 

   ジグゾー・パズルができあがった 
   自然の断片のなかに 
   生命の全体像が隠されているのだから 

   青年よ
   まず君から手をつけてみないか 


 この連にも「沈黙の世界」から僕等にも語りかける、
時を越えた詩人の語りかける声が聞こえてきます。 


   5 

   老人は遅れて歩いてくる 
   というのは錯覚さ 

   地平線を何度も越えてきた人間の足は 
   時間よりもはるかに速い 

      〜中略〜 

   人 木 小動物 野鳥さえ 
   月光に透視されて 

   人間は影という実体になる 


 この「老人」は他ならぬ老年に入った頃の田村隆一自
身でもあると思います。長年人生の旅を続けた詩人の肉
眼に映るのは人や物事の「上辺」ではなく全ての存在の
背後に在る深い影なのでしょう。 


   7 

   人間が人間そのものになるとき 
   大きな木は語りだし 
   渓流はしずかに歌いはじめる 


 木というものの不思議な存在感の前で詩を愛する僕等
が自分らしくある時、かつて世を生きた詩人は木と同じ
次元から「沈黙の声」を「詩の夜に集う」僕等に語りか
けているのを感じました。 

 ダンディでクールな中に熱を秘めた田村隆一の詩の世
界から語りかける声を「ぽえとりー劇場」の粋な詩人・
らびさんが受信して詩の新聞を広げて朗読してくれたあ
の時間は、今回の「ぽえとりー劇場」の密かなドラマで
した。  



   ※ 文中の詩は「田村隆一INDEX」(鎌倉文学館)
     より引用しました。 








散文(批評随筆小説等) 田村隆一「人が星になるまで」を読んで 〜在りし日の詩人からの語りかけ〜  Copyright 服部 剛 2008-06-18 19:29:16
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