天国行きの罪びと・地獄行きの善人
プル式

神様は悩んでいました。
天国が今日も平和だったから。
そして
地獄は今日も狂気があふれていたから。

天国は平和なところでした。みんな優しく、あたたかな家族のようでした。

地獄は狂気にあふれたところでした。みんな罰を受け、血を流しまるで殺伐とした空気が針のようでした。

神様はひとつ、試してみようと思いました。
次に訪れる者たちを入れ替えてみようと。

そしてやってきたのは、とてもやさしく、とても暖かい、まだ若い青年でした。青年は争いに巻き込まれた子供の代わりに撃ち殺されたのでした。
しばらくするともう一人、青年がやってきました。それは毎日人に喧嘩を吹きかけては最後には殺してしまうチンピラでした。彼は自分で吹きかけた喧嘩で殴り殺されたのでした。

2人の青年に神様は言いました。
「罪びとよ聞くがいい、善人が受け入れるなら、その扉は開かれよう。」
「善人よ聞くがいい、お前が望むならその扉は開かれよう。」

罪びとはいいました。
「それじゃ、俺は天国へ行きたい。生きていた頃はひどいことばかりだったから」

善人は言いました。
「それじゃ私は受け入れましょう。その人に優しく出来なかったその罪は私の罪です」

そうして罪びとは天国へ行き、善人は地獄へ行きました。

地獄に着いた善人はその目を覆いたくなるような世界にただ驚いていました。そこへ悪魔がやってきて善人に言いました。
「お前の罪はあいつの罪だ。あいつの変わりにお前が償うんだ」

天国に着いた罪びとはそのあまりの美しさにただ息を呑みました。そこへ天使がやってきていいました。
「あなたの美しさは彼の美しさです。やさしい世界はあなたのものです」
地獄に行った善人は咎を受ける合間を見てはまわりに気を配り傷の手当てをし続けました。

天国へ行った罪びとはその退屈さに住人たちに嫌がらせをしました。
しかし、善人がいくら手当てをしても地獄の住人たちは善人をののしるばかりです。

しかし、罪びとがいくら悪態をついても天国の住人たちは全てを許すのです。

2人は思いました。「私が間違っていたのだ」と

善人は手当てをすることを止めました。そして、ののしり続けた住人をののしりました。

罪びとは悪態をつくことを止めました。そして、笑顔で世間話を始めました。

罪びとは天国の住人になり、こう言いました。
「あぁ、世界はなんて美しかったことだろう」

善人は地獄の住人になり、こういいました。
「あぁ、世界はなんと言う醜さであふれていたことだろう」

神様は悩んでいました。
天国が今日も平和だったから。
そして
地獄は今日も狂気があふれていたから。


散文(批評随筆小説等) 天国行きの罪びと・地獄行きの善人 Copyright プル式 2008-06-14 17:37:37
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