For beautiful human life from 一般道
キリギリ
肉Aが騒音を発する機械(パシタータ、と呼ばれる)に乗せられ
がいんがいんと形を変えている。興味深い型枠に押し込まれた肉Aは
ベルトで運ばれ良い匂いを振りまく機械(ポスラ、と呼ばれる)に
収容され、あらかじめ設定されたメッセージによってやる気が出るまで
励まされる。だいたい5分〜7分後、ポスラの青ランプが光り、やる気の
みなぎった肉Aはポスラから飛び出し、約1メートル半先の従業員の手元に
着地する。ここまで届かなかった肉はやる気が足りないと判断され、再び
ポスラに戻される。無事、従業員の手元に届いた肉Aは型枠を外され、
表面に「自由」と書かれたステッカーを貼られて箱詰めされ、冷凍庫で
他の肉と共に定年まで保管される。
「肉の自主性を尊重する」がモットーの我が社では最新の設備と
熟練した従業員の技術によりどんな肉にも再チャレンジの機会を与え
自発的なやる気をうながし、肉本来のエネルギーと旨味を引き出します。
午前中に50ヶ。休憩を挟んで午後にも50ヶ。今日もつつがなく
仕事を終えた僕は白い作業着から黒い普段着へ着替え駅へ向かい
たむろするフリーハグのプレートを掲げた集団を端から順にハグし
最後のヒッピー風少女には濃厚な接吻まで与え戸惑う少女に「その
無防備な唇がイケナイんだよ」と囁き背を向けて立ち去る。少女が
顔を赤らめて、或はもっと積極的にこの右手を掴んでくれないかな、
ほらだんだん距離が開くぞ、わざとらしく遅い歩行にも限度があるぞ、
と妄想している頭部に強い衝撃があり僕は意識を失わなかった。さっき
ハグしてあげたばかりの若者の内の数人が屈んだ僕を取り囲み蹴る。
彼女にだけ接吻したのがそんなに気に食わなかったのだろうか。愛と
憎しみは紙一重だ。脇腹を蹴り上げる足の根元に接吻の最中に擦っていた
少女の太ももがある。なるほど平等でないことは特別な者にさえ怒りを
与えるのか。罪の意識かもしれない。少女の目が微かに潤んでいる。
一緒に怒らなければ仲間はずれにされてしまうから。彼女の蹴りには
哀しみがある。他の者の蹴りにも違った意味での哀しみがある。どうにも
哀しみだらけなので雨が降り出す。あぁ雨は加速してしまう。悲劇とか、
雨に濡れたくらいで冷静になれる怒りじゃないってことを証明して
やろうぜ、という彼らの演劇的性格を加速してしまう。「謝れよ」
「土下座して謝れよ」という声が混じる。接吻されなかった者たちに、か。
強さを増す雨は全てを洗い流す。僕はよろよろと立ち上がり正面にいた
男と唇を重ねる。そして緩慢に、だが確実に次の男の唇へと移動する。
静かな時間が流れる。彼らは悟ったのだ。これこそが本当の愛だと。
4人目の男に、痛む身体をそのまま預けるかのような接吻を与え
倒れ込む僕は驚愕する。自らのポテンツの反応に。いつからか、どこから
だろう。蹴られる前は普通だった。少女との接吻程度でいきり立つほどの
若さはない。いや妄想の中での予兆が。それでもせいぜい2分勃ちだ。
しかし今はどうだ。僕のバベルは既に天を貫く勢いじゃないか。もはや
全身が雨に浸っている。取り囲む彼らは動くことも言葉を発することもなく
立っている。見下しているのだろうか。惚れているのだろうか。硬い
アスファルトに伏し足首と靴だけが見えるこの視界は新鮮だ。雨も良い。
僕は唐突に「床オナ」という言葉を思い出す。床に股間を激しく擦り付けると
えもいわれぬ快感があると言う。痛みに身をよじる感じで、どうだろうか。
これはチャンスとは言えないだろうか。貴重な体験とは言えないだろうか。
僕は「ううぅ」と唸り腹を抑えるふりをしながら手で股間をまさぐり
「うっ」という大きめの声と同時にジッパーを下げた。第一関門突破だ。
うつぶせの腰を少しあげ社会の窓から指を差し込み逸物をまろび出そうと
しかし今や完全体と化したそれは壷の中のバナナのように引っかかり猿で
あるところの僕は「もう!僕の思いつきはどうしてこう何でもかんでも
上手くいかないんだ!」と怒りズボンの留め金を外してパンツごと一気に
ずり下げたところへ騒ぎを聞きつけた警官が2名登場。
駅は電車が走ります。通路が滑り易くなっております。
夢に破れた男が独り、レールに飛び込み両足を切断します。
足なら大丈夫だと思った。障害者年金を貰って暮らしたかった。
暮らせるほど貰えないとは思わなかった。とは男の弁。
自分でマスターベーション出来る人には性的補助の助成金は
出ないんだって、オランダのドルトレヒト市では。とは女の弁。