テリトリー
あおば

          080430



疲労回復には
液晶テレビ
大画面のコマーシャルをと
キャッチコピーを捕まえて
頭からガジガジと
囓ってやると
殺し文句を考える
捕まえたり囓ったり殺したり
忙しいですねと
お隣のご隠居さん
昨秋連れ合いに先立たれ
骨壺を抱いたまま
すやすやと眠りについてますと
自己満足しているご様子
喧嘩するだけ仲がよいとか
殺したいほど好きとか
複雑な感情が渦巻いた後に
自己満足だけが丸くなって
とぐろを巻いているようで
面白くなってきたと
ページを捲っていたら
饅頭怖いの落語を思いだす
饅頭は好きだけど
安くないからたらふく食べたことがない
友達を欺いて
思う存分食べてやると
お茶を飲みながら夢想する
今度はお茶が怖いとは
端から決まっていた台詞
それに感心するキミは
落語の落第生
きっと人生の勝負には勝てるだろうが
お休みの日には
することが無くて
メタボ症候群に悩まされ
巻き尺の長さが違っていると
妄想逞しく苦情をルル述べるクレーマーになって
昔なじみの
饅頭屋の小せがれに殴られて
鼻血を出して焦っているかもしれない
小せがれと言ってもそれは昔のことで今では
キミよりも体格がよいのだから
負けるのは当然なのだけど
ふだんは
お客様扱いされていい気になって
口惜しかったら掛かって来い
左手で片付けてやるなどと
挑発したのだから
喧嘩両成敗というものの
殴られて鼻血を出したからと言っても
殺されて囓られたのではないのだから
この際諦めて欲しいと皆が嘆願したところ
盗んで饅頭を囓ったのではないのだから
いきなり殴るのは不当だと
俺にはなんの落ち度もないのだと
猛々しい顔をして不条理な文句を言い続けている
負けるが勝ちとはどういうことかと考えた
負けた方が勝ちだとすると
最終的にに勝ったのはメタボの男
負けたのは饅頭屋の小せがれ
だとすると
結局
今度は
勝ったのは饅頭屋の小せがれ
負けたのはメタボの男
だとすると
結局
どこまで行ってもきりがない
勝ったのは誰だ
負けたのは誰だ
殺されて囓られたのは誰だ
怖いのはきっかけをつくってしまうちょっとした心のアンバランスだと
少しだけ気の利いたことを言って
ご隠居さんは偽物のプラスチックの骨壺を見せびらかして
内股でよちよち歩く
横町をひらひらと蝶々のように飛んでいるようにも見える
テリトリーの内側で
妄想だけで終わらせるのは少しだけ惜しいような気がする
夕べの沢庵石
勝ち負けの味の重さは
漬け物に聞いてくれと言いたげに





自由詩 テリトリー Copyright あおば 2008-04-30 01:17:01
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