あかさたな限界
あおば

              080414



 鬱蒼とした針葉樹林を抜けると、その先にはさわさわとした竹林がございました。先導するお頭の魚覧観音を偲ばせる柔和なお顔にも笑みがこぼれ、思わず手を合わせてしまいそうになるのを我慢して、袖の中から蝦蟇口を取りだし、手の切れるような諭吉を3枚ほど摘み、これでおやつでもと近くにいた女の童に手渡したところに、マブダチを衒うものどもがわらわらと近寄って来るのです。
 てんでに俺にも諭吉を寄越せと薄汚い手を突き出すので、500円硬貨を一掴み投げ与えたところ、少なすぎるとタバコの脂で真っ黒な歯を剥き出し喚き罵るありさまは、まことにおぞましく、とてものことに21世紀の出来事とは思われないが、これも浅ましい現実だから、よく眺めておきなさいと柔和なお顔を少しだけつりあげた、鈴のような限界のないお声がどこまでも拡がって、一同は思わず姿勢を正して歩調を整えたので、追いすがる童供も、もはやこれまでと諦めたのか顔を歪ませたまま、その場に足を留めるのみ。まことに我らのお頭の威光はめでたく恙ないものと今更ながらに感動いたしました。



自由詩 あかさたな限界 Copyright あおば 2008-04-14 22:37:57
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