遠い朝、泣かない夜
いとう




苫小牧の少女が一篇の詩を書き上げる頃
渋谷の未成年たちは今日の居場所を探す
小さなハコで鮨詰めになって揺れながら
沖縄の夜の珊瑚礁を思う
糸井川の漁村の少年は
明日の朝の漁を邪魔しないよう
小さな自分の部屋に閉じ込められ
暗闇の中、昼間に聴いた流行歌を口ずさむ

すべての人に
すべての夜を
夢を見るには早く
あきらめるには
ほど遠く

病院の地下の霊安室で
実習生が泊り込みの番をする
ホルマリンの臭いの奥で
生きてきた人々の気配が消えていく
すべての人に
すべての夜が
ときどきには
訪れないまま
眠らない人々の溜息と吐息が
紫煙のように目的もなく立ち上り
それはまるで
愛しいものを知らない嘆きのように
呪いとなって降り積もる

すべての人と
すべての夜に







未詩・独白 遠い朝、泣かない夜 Copyright いとう 2004-07-05 00:05:12
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