立春
嘉村奈緒

あなたは、
簡素な手順でわたしの胸倉を開き
匂い立つ土足
こればっかりは慣れないものです
その度に鮮やかに毟られる


あなたと遭難したい
篭って
香しき動揺が眼に見える位置で
わたしの胸倉なんて
いくら盗まれてもかまわないのだから
春が来ないね、なんて
言わないでください
けれど


剥き出しのわたしにあなたは興味をなくす
あなたが去ると わたしは悲しい
来たときよりも簡素な手順で
あなたはわたしの胸倉を閉じる


そうして閉じられてしまったわたしは
もう春になるほか 位置がなくて



未詩・独白 立春 Copyright 嘉村奈緒 2004-06-28 01:50:14
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