返事
アンテ

おにぎりの要領で
ぎゅっと空気を押し固めると
野球のボールくらいの球体ができあがる
無色透明だけれど
触れるとちゃんとそこにあるのが判る
砂糖や小麦粉をまぶすと
指の跡までくっきりとうかび上がる
縁側に立って
投球の構えから
勢いよく腕を振り下ろすと
音をたてて垣根が葉をゆらす
庭に満ちた海水がしぶきをあげる
あるいは手元が狂って
とんでもない方向に飛んでいってしまう
だれかを傷つけたりしていないだろうか
謝る手紙をしたためて
空気のボールに封じ込めるものの
同じ方向に投げる自信がなくて
代わりに
当たり障りのない
王冠とかキャンディを入れて
力任せに投げると
庭のブルーベリーの枝に当たって葉をゆらす
やれやれ
一体なにをしているんだろう
お茶の準備をしていると
縁側で軽快な音がして
小さな紙切れが入ったボールがひとつ
足もとまで転がって止まる
キャッチボール
しようよ
封じ込められたメモ書きの文字は
とても力強くて
縁側を行ったり来たり
ずいぶん悩んで
ようやく書いた返事を
しっかりと空気のボールに入れて
長靴で水しぶきをたてながら
庭を横切って
垣根のきわから外へ
力いっぱい
投げた
と思う間もなく
鈍い音とともに跳ね返ってきた
ボールは
海水のうえを何度か弾んで
庭の半ばに落ち着いて
さざ波にゆられるうち
気体に還って
水面にわたしの返事を放った
いつからこんなところに
柿の木なんて
立っていただろう
垣根のむこう側
風に葉を揺らしている
まぎれもなくボールが当たった証拠に
ひとつ ふたつ
波間を葉がただよっている



自由詩 返事 Copyright アンテ 2008-02-21 02:19:10
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。