批評祭参加作品 ■ 詩友への手紙 〜この世を去った友へ〜 
服部 剛

 今日の仕事帰り、電車を降りた後に歩道橋で立ち止ま
り、数日前にこの世を去った君のことを考えていると、 
静かな雨が降り始めた。昨夜のBen’sCafeでそ
の知らせを聞いてから、僕はその事実をどう受け取れば
いいのかわからなかった。君はこの地上から見えない場
所に、隠れてしまったかのように感じる。 

 君と出逢った頃に、Ben’sCafeのガラスの壁
の中からこちらに手を振る君の姿や、大学卒業後の進路
について悩んでいた君と飲み屋で語り合った日を思い出
している。あれから君は、僕の想像を超えた闇に幾度も
抵抗してもがいていたのだろう・・・ 

 君がすでにもういないということが、まだ実感できな
かったが、今朝、バスを降りて職場へと歩きながら、僕
は顔をくしゃくしゃにして涙を流していた。 

 職場について、今日集まるお年寄りが飲むお茶をやか
んに入れながら、君のことを考えてふと顔を上げると、
ついさっきまで動いていた時計の秒針が止まっていた。 

 今日一日、何度僕は君の名を呼んだことだろう。そし
て何処かへ姿を隠したようにこの世から去ってしま
った君に、(僕は生きるよ・・・)という只一つの決意
を、今日という日の間に、何度僕は心に呟いただろう。

 僕は不器用に、みすぼらしい、あるがままの姿で、こ
の地上の旅を歩いてゆく。日々の職場の老人ホームを、
Ben’sCafeの「ぽえとりー劇場」を、皆で素晴
らしい場に育んでゆくという夢がある・・・人の心に残
る一篇の詩を書くという夢がある・・・三ヶ月前に渋谷
のCafeで君と話した時も、僕は君にそう伝えた。 

 君がいなくなってしまった後、僕は職場で転機が訪れ、
僕の前には今迄越えたことの無い未知の壁が立っている。
僕はその未知なる日々に向かっていかねばならない。
君の死をどう受け止めていいかわからずに立っている僕
は、たとえこの寂しい心に哀しみの風が吹きぬけても、
目の前に壁があっても、(僕は生きる)・・・この一つ
の決意のみが、今の僕に伝えられることだ。君との出逢
いを、無駄にしたくはない。風になった友よ、どうか、
空から僕等を見ていてほしい・・・かけがえのない仲間
達と織り成してゆく、この人生という夢の日々を。 

君が大学を卒業したあの頃、僕は君に向けて一篇の詩を
書いた。あの日僕が、この詩にこめた想いを、今夜もう
一度、想い巡らせたい・・・ 


僕は明日も君の名を呼び、
只一つの決意を、胸に呟くだろう。 


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散文(批評随筆小説等) 批評祭参加作品 ■ 詩友への手紙 〜この世を去った友へ〜  Copyright 服部 剛 2008-01-28 22:50:09
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