狂ってなんかいないよ、君は僕だもの。
朽木 裕
「僕は狂っているのだろうか」
真剣な顔をして問うた彼を目前にして
あろうことか俺は吹きだして笑った。
狂ってるか?だって?
馬鹿馬鹿しい。だって人間なんてさ、
「狂ってなきゃ生きらんねーだろーが」
俯瞰していく意識。
腰掛けた机の上、俺のつむじを見つめる俺の意識。
彼、青山セイは案の定、不安定に目を泳がせて
泳がせて静かに下を向いた。
「そうか、」
俺の意識は四階の教室を抜けて外へ行く。
視点の急降下。
校庭の隅、可憐な赤い花。
…来栖ミキ。
校庭の隅にある砂を掻き集めて袋につめている。
俺は知ってる。
来栖はあれを家に持ち帰るんだ。
もう一週間も続けてる。
ああ、これを視てるのは今じゃない。
昨日、いやおとついか?
脳に焼き付いてる。
「…隅田?どうかしたのか?」
「ん、いや何でもねーけど」
目、曇ってる。大丈夫か、と云って本当の本気で
心配そうに泣きそうになるセイ。
本当にコイツはどれだけ人のこと心配する気なんだろ。
その心配の100倍くらい自分のこと心配した方がいいに
決まってるっつーのに。
俺には感情があちこち欠落してる。
自称だが。バグだ。欠陥品。
狂って生まれたんだから狂いながら生きて
狂いながら死ぬんだろう。
ま、誰しも人間そんなもんだ。
俺には悲しいとか辛いとか苦しいとか
なんかこう、青春につきものな胸が苦しくなるような
青い感情がひとつとしてない。
近しい人が死んだって悲しくもなんともない。
その物体がいつかなくなるだけ。
ま、死んだ直後は存在はするけどね、生きてなくても。
親しかろうがなんだろうが関係ない。
だってそいつは死んだんだろ?
悲しいとか辛いとか苦しいとか
どういうときに感じる感情なんだ。
俺にはサッパリわからねぇ。分からなくて結構だけどね。
空に烏が一羽、
青い空に黒点みたいに映えて
風がざぁ、と吹き抜けた。
俺とセイは高校二年だが二年間ずっと一緒にいる。
しかしながら俺は誰かに固執したりしないので
一緒にいるってことはセイが一緒にいてくれてるんだろう。
こいつは俺にない感情を沢山持ってる。
泣いたり悲しんだり忙しいことこの上ない。
しかしながら分析してみることには
こいつは怒ったりしない。
理不尽な教師にムカついたり愚痴ったり嘆いたりしない。
俺がどんだけ腹立つことをしでかそうと
こいつだけには通じない。
例えばだ。100人に試して100人が怒ることだとしても
こいつにかかりゃ、のれんに腕押し、糠に釘。
これ、使い方あってるか?
だから俺たち一緒にいるんかな。
ぼうっと思って
狂ってなんかいねーって、って呟いた。
「ん?」
「セイ、お前は狂ってなんかいない」
だってお前は俺だから。