ゆきをんなとわたくし
こしごえ




かなしいふちに降る雪が、
しろくしろいねむりにつき
冷気をはりつめて
その肺にひびいている。
しぃん、とした熱が、
深淵から徐々にひろがり
焼けた声となって吐き出され
冬の空のもとを
しろくにじみながら わたっていった。

わたくしという形象は、無器用な月のやいばである。
青白くやせ細りしかも虚空で
みちては欠けるを繰りかえす稜線。
みねはおし黙りけわしく
そびえている


恐ろしい。雪の白さに穢れは無くて
月光でしろがねいろに青ざめて
 ― 今日も終りますわ、と
君がつややかな黒髪に手をやった
白いくびすじは
亡霊のように透けており
みずからをおそれおののく月虹を斬罪に処する

   水月すいげつ過日黒曜日こくようび

   おもい出の岸をはなれたこぶねが、
帰ることはなかった。
   あなたとわたしは時代の
共犯者であることにはかわりない。
続いていく歴史の中で
歩みを止めれば、おもかげのつめたぁい手に、
ひかれていざなわれてゆく 罪。
 ― (生きてくのだ、何があろうと)、と
その手を染めてくれたあなた。
熱い流れを抱きしめあい


何万年も
めぐりめぐって降ってくる雪
俗世界に落ちてもなおしろく
(しろいゆきはかなしいくらい うつくしい)
しかし同じ冬とは二度とあえない

うつくしい、とはなんなのか。
わたくしをかえりみず
その手をとれば
うつむいて 零れるばかり
約束された
死をもって かきいだく
みずからのみにくさ
みにくい、とはなんなのか。
かえりみなかった
みずからをあざわらうわたくしが、
ふちにしずむ鏡をすくうように目をふせてしまう。


雪国の一面は、銀世界
冬ごもりをする山脈や森と田園
しずけさにみちる冷気のほとりを
終らない季節の風紋が
雪明りとなって
夜道をうかびあがらせる

   新雪を わたるあしおとあつくなり
   くりかえされる 空の永逝








 その昔、すべてへ雪降る夜に、
をんなは月人つきひとと契りをむすび
とけていってしまった。

白鳥が、星星をむねに 高く鳴きつらねている







自由詩 ゆきをんなとわたくし Copyright こしごえ 2007-12-08 12:01:35縦
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