指売りの少女
佐々宝砂

指はいりませんか?
イキのいい天然物の指です
指はいりませんか?

いまどき流しの指売りとは珍しい、と
呼び止めてみたらごく幼い少女だった

どの指を売るのかい、と
訊ねてみたら箱を差し出した
ぞろり、と
指が並んでいた

おいおい、天然物を売るんだろう
これは養殖物じゃないか、と
天然物のはずがないと思いながら笑う、と

いえいえこれは見本に過ぎません、と
いやに大人びた口調で答えて
さてお客さん御覧下さいな
言うが早いか右手に鉈を持ち
唇で鞘を抜き払い
すぱぱぱん、と
左手の指すべて断ち切り
さてお客さんどの指をご所望ですか
イキのいい天然物ですとも
微笑む少女の左手からは
あかい血が吹きこぼれ
泡立ちながら肉芽新しく伸び上がり

さてお客さんどの指をご所望ですか
この通り新鮮なんですから
早くお買い上げ願います


自由詩 指売りの少女 Copyright 佐々宝砂 2007-11-25 22:53:55
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
創書日和、過去。