ジッポ売りの淑女
マッドビースト


 雨をよけて駅の構内で
 ジッポを売る君

 駅構内でのセールスはいけないけど
 雨に濡れてひもじそうにしていては
 誰も買ってはくれない と
 合理主義者の君の哲学はいつも正しい
 
 お兄さん3000円ぽっきりだよ
 と キャバクラではないんだが
 マッチじゃないから安くもなくて
 ジッポだからしょうがないんだけど 
 勘違いして目もあわせず行き過ぎる男達を見送る顔は
 実はそれほど困ってはいない

 マッチを売らないのは実入りがわるいからじゃないし
 エコロジーのためでもないそうだ
 聞かなくても理由はなんとなくわかる
 悲しい童話の結末は軽いトラウマになってしまった
 僕らは多感な昭和生まれだ

 風が吹いても消えないジッポ
 何年昔の売り文句だかしらないが
 消えない夢を見てるから
 なんてぜったい口にはしないけど
 暇になると悪びれもなく売り物の火を着けたり消したり
 いつもハッピーエンドが条件
 罪悪感に殺されちゃいけない
 退屈に飼いならされちゃいけない 
 
 最近売れ行きが良くないと他人事のように言っている
 みんな夢の消え入るのを待ってるんだと 言い合っては笑う 
 僕らは皮肉な昭和生まれだ
 
 朝の光が構内に差し込むと
 うざったそうに目を細めて帰っていく
 太陽の光を懐かしそうに眺めるようになったらおわり
 が いつも捨て台詞
 まるでバンパイア
 
 見終わって死んでしまうくらいなら
 ベッドで見る夢の方がいい と
 合理主義者の君の哲学はいつも正しい

 カチーンカチーン
 また売り物の澄んだ音を構内に響かせて去っていく
 ジッポ売りのレディ
 


自由詩 ジッポ売りの淑女 Copyright マッドビースト 2004-06-10 02:12:52
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