ジッポ売りの淑女
マッドビースト
雨をよけて駅の構内で
ジッポを売る君
駅構内でのセールスはいけないけど
雨に濡れてひもじそうにしていては
誰も買ってはくれない と
合理主義者の君の哲学はいつも正しい
お兄さん3000円ぽっきりだよ
と キャバクラではないんだが
マッチじゃないから安くもなくて
ジッポだからしょうがないんだけど
勘違いして目もあわせず行き過ぎる男達を見送る顔は
実はそれほど困ってはいない
マッチを売らないのは実入りがわるいからじゃないし
エコロジーのためでもないそうだ
聞かなくても理由はなんとなくわかる
悲しい童話の結末は軽いトラウマになってしまった
僕らは多感な昭和生まれだ
風が吹いても消えないジッポ
何年昔の売り文句だかしらないが
消えない夢を見てるから
なんてぜったい口にはしないけど
暇になると悪びれもなく売り物の火を着けたり消したり
いつもハッピーエンドが条件
罪悪感に殺されちゃいけない
退屈に飼いならされちゃいけない
最近売れ行きが良くないと他人事のように言っている
みんな夢の消え入るのを待ってるんだと 言い合っては笑う
僕らは皮肉な昭和生まれだ
朝の光が構内に差し込むと
うざったそうに目を細めて帰っていく
太陽の光を懐かしそうに眺めるようになったらおわり
が いつも捨て台詞
まるでバンパイア
見終わって死んでしまうくらいなら
ベッドで見る夢の方がいい と
合理主義者の君の哲学はいつも正しい
カチーンカチーン
また売り物の澄んだ音を構内に響かせて去っていく
ジッポ売りのレディ