父のこと
銀猫


呼びかける名を一瞬ためらって
声は父の枕元に落ちた

あの日
医師から告げられた、
難解な病名は
カルテの上に冷ややかに記されて
希望の欠片も無く
黒い横文字となって嘲い
無情に切り取られた肉塊は
奇妙に生きていたね

麻酔の余韻に熱っぽい顔を
精一杯緩ませて笑う
痛いくらいの強さを知り
あなたが父であることを誇りに思う

闘う、ということ
守る、ということ
愛する、というこころ

ゆるゆると落ちる点滴に
わたしまで何かが滲みる

ぽとり、

とり

泣けば良いのか
笑えば良いのか
それすらも迷うわたし、
小さい

白いシーツの海を
どうか泳ぎ切って
叱ってください
わたしを


自由詩 父のこと Copyright 銀猫 2007-10-24 20:48:44
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