輪郭、その曖昧な、
望月 ゆき

現在という塊の中から
わたしの輪郭だけを残して、わたしが
蒸発していく
夕暮れの空は赤く発光し、届かない高さで
じっとして居る
いったい、わたしは何に忘れられたのだろう



浮遊するわたしを 秋がついばみ
指先から徐々にほつれはじめる
風が吹いて、やがて 
わたしの輪郭が住む、あの部屋の屋根を越えて
降りつもる金木犀に、重なって眠る
幼い日の、記憶



透明なわたしに、午後はいつもやさしい
西からの引力が 窓に反響して
わたしを震わす
祈りにも似たその声と 時間のひず
それだけがわたしを助け
地面とわたしとをつなぐ、蝶番ちょうつがいとなる



歳月は茶褐色にめぐり
夜と朝を、
今日と明日を、
忘却と記憶を、それから 
輪郭とわたしを、縫合する
ぬるい湯につかりながら、まだ傷むその箇所に手をあて
目を閉じる 長い間、
あるじを亡くしていた輪郭の線は ひどく曖昧で
内側のわたしは ともすれば
外側にもなり得るのだと知る
瑞々しい秋光の中で、それは
幸せと不幸せの境界線と、よく似ている







自由詩 輪郭、その曖昧な、 Copyright 望月 ゆき 2007-10-22 15:04:08縦
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