滑走路
狩心

今、線路の上に横たわっている
硬いレールの上に、手、足、背中、後頭部
知覚するには充分な、支える点の数々
小さな振動を感じている
少し浮き上がる体、そして着地する
少し浮き上がる体、そして着地する
発作が起きている、体中に革命
硬いレールから伝わってくる振動
何かが近付いて来る
耳が知覚する、汽笛の音を
先行された演説
そんなものでは私の体は動かない
反比例するように、二次関数のグラフ
私の中から小さな振動が伝わってくる
心臓の音、脈々と受け継がれてきた先祖達の匂い
遠くの列車が近付いて来る
その振動よりも遅く
内側からスタートした列車が脈打つ
どちらが先に
私の体、そして心に到達するだろう
両者共に振動は強くなり、爆音を上げる
私は感じた
内側の列車の方が速い事を
そして、様々な顔
すべてを背負って、この一点に向かって来る今
私の傍らで見守る主治医が
手、足、腹部、胸部、そして前頭葉に
極太の注射を何百本も打ち込む
注入されていく液体、人々の声
私の体は透明になっていく
外側で爆音を上げる列車は
私の体、十メートル手前で
永遠とも思えるような、静止の瞬間を見せた
その列車は演説している
私を轢き殺す許可を得ようと
その列車は歓喜している
私の体をバラバラにする興奮と快楽について

時間が動き出すと
既に私の体は完全に透明になっている
私の体を通り過ぎる列車
物理的な現象は
反比例する二次関数のグラフの前で
何の意味も持たない
内側の列車から降りて来る乗客たち
乗客たちは一様に皆
ホッとした安堵の表情を浮かべ
傍らに居た主治医の姿は消える
硬いレールの中に染み込んだ血

レールの中を、血が、人々の声が、無言の表情が、疾走していく
それと共に、世界中の列車が、脱線事故を起こす
乗客は皆、外の地面に投げ出され
自らの足で、歩く事を余儀なくされる
自らの手で、築いてしまった途方もなく長いレールと機械音
そして皆、内側の列車の振動を、音を、様々な乗客たちの顔を
確認する為に
線路の上に横たわり始める
無数の人々の体で出来た線路の上空を
最先端技術を駆使した車輪のない列車が
演説しながら大気圏に向かって上昇していく
このまま燃え尽きて、消滅する事を知っていても
高鳴る心臓は宇宙を求めて
小さな赤ん坊を抱きしめる
千切れた体の一部が
あの、宇宙空間に漂っている事を
知っているので


自由詩 滑走路 Copyright 狩心 2007-10-06 15:38:14
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