なごりの九月
千波 一也

なんとなく
わかっていたけれど

夕風は
すっかり
つめたくて
昼間の陽光も
どこかしら寂しげで

緩やかに
届かぬ夏を
受けとめる頃合です


おろそかに出来るくらいなら
思い出などと呼びません

どれもこれもが大切で
ますますわたしは
乗り遅れます


 なごりの九月、
 透明な駅舎には
 旅人の名が集います
 透明に
 例外なく
 ふくらんで


秋風は
吐息を白く濁らせて
透けてゆくのを待つばかり

わたしのなかの
揺るがぬ熱のひとつとしての
あなたをまっすぐ
呼ぶように


こたえてくれますか
わたしの、
わたしだけが知っている
正直なあなたへ
意地悪を

正直な
一度を一度と
この手にたしかめ


 なごりの九月、
 うそに不慣れな顔立ちが
 あらわにきれい

 すべての両極は
 まるで鏡のようです

 それぞれの手に
 風ふさわしく









自由詩 なごりの九月 Copyright 千波 一也 2007-09-24 08:48:47
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【きみによむ物語】