スズキ
Monk

格式のある店内
マナーは重視されている
テーブルクロスの裾からのぞく恋人の赤いパンプスが
僕の心臓を掴んでいる
身の豊かなスズキのムニエルが運ばれ
彼女は優雅な手つきでそれを口へと運ぶ
思わず息をのむ
その横で饒舌なウェイターは
僕の耳元に恋人のあらゆる秘密を囁きはじめる

露わになる恋人の
露わになる恋人の

これは許されないことだ、と
叫ぼうとする僕の口は
いまだ叫んだことがない
そのやりかたを知らない
僕は徐々に赤面してゆく
耳をふさごうとする
その両手を
恋人が優雅な手つきで阻む

露わになる恋人の
露わになる恋人の

ウェイターはいつのまにかいない
恋人は食事をすでに終えている
何事もなかったように
何事もなかったのだろうか?
僕は自分の皿を見下ろし
顔に照れ笑いを取り戻す
途端
手つかずのスズキが
歪んだ口を使って告げる

許されないのはお前のほうだ



自由詩 スズキ Copyright Monk 2007-09-09 19:03:05
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