閃光
久遠薫子




空がパッと閃いて
少しあとで雷が鳴った
昨日も今日もたおれそうに暑くて
夕立でもあれば少しは何かを思い出すかしら、と思った
この邪魔なおくれ毛は刈りあげるべきじゃないかしら、と思った

すぐ脇を通り過ぎる車も
みんな焼けただれていた
昨日も今日も泣き出しそうに暑くて
おとなしく礼儀正しい人間は丸い月夜ではなく
真夏の白昼まばたきする間に狂気が閃くのだ、と思った


バス停のベンチが溶けたあとには
奇跡の花が咲く
たぶん後ろの木のほんのすぐそこでは
澄んだひぐらしの音が

かなかなかなかなかなかなかなかな かな かな かな

おまえも心配なの


あきらめるには先がまだ長そうで
あきらめたところで何も終わってはくれない
来世のために徳を積む?
独房で祈り続ける日々ならまだしも


帰ろうよ

帰ろう かえろう

帰ってきてよ

お願いだから帰ろう

うちに帰ろうよ


空がパッと閃くのとほとんど同時に
叫ぶような雷が鳴った
踏み外したら戻れないなんて誰が言ったの
バスには乗らない
北も南も星が知ってる
もうじき
夜になれば
きっとわかるよ



  ('07.08)


自由詩 閃光 Copyright 久遠薫子 2007-09-07 06:57:39
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