記憶の断片小説・ショートシネマ 「ロイド」
虹村 凌

「二本目の煙草・牛込神楽のセブンスター」

僕は地下鉄大江戸線を降りて、改札を出る。
携帯に道順を示したメールが来たので、それを頼りに、彼女の家に向かう。
一度、通り過ぎてしまって、引き返してきたところで、
彼女が家のドアを開けて、待っていてくれた。

僕と大して変わらない身長、痩せた色白の体、
短めの髪の毛、眼鏡の奥の、小さな垂れ目。
小さな口で微笑む。
挨拶もそこそこに、家の中に入る。

ちなみに、今でも、あの家の一回の間取りは、何となく覚えている。
あの家は、今はもう無い筈だけどね。

どんな会話を交わしたのか、あまり覚えていない。
僕らはテレビに向かって設置されたソファに腰掛けた。
僕はソファの左端に、彼女は右端に。
今だったら、そんな座り方しないだろうけどね。
その頃の僕は、まだ女の子慣れしていなくて、
かなり挙動不審だったと思う。
そんな風にして、僕と彼女は、ひと一人分の隙間を開けてソファに腰掛けて、
「サムライフィクション」を見ていた。

余談。
確か、いくつかビデオを借りたのだけど、
ビデオデッキが故障してしまって、借りたビデオが見られなくって、
彼女が借りてきたDVDが「サムライフィクション」だったはずだ。

見終わった後、彼女は僕にこう言った。
「何でそんなトコ座ってるの?ってか、変じゃない?」
僕はどんなリアクションをとったか忘れたけど、
きっと挙動不審な感じで、彼女との距離を詰めたんだと思う。
ちょっとイチャイチャとして、遊んで。
慣れていない僕を、彼女は笑っていた。

僕が靴下を脱いで、小さな机の上に足を投げ出すと、
彼女は「汚いなァ」と少しだけ、不機嫌そうに言った。
それは大した事ではなかったけれど、何だか、今でも覚えている事。

僕達は少しの愛だだけ、お互いの体を触ったりして。
前戯にも満たない、ちょっとした遊び。
僕の思いつきで、ライチを呼ぼうっていう事になった。
ライチの紹介で僕らは出会ったんだものね。

僕らはライチを呼んで、彼女が来るのを待っていた。


散文(批評随筆小説等) 記憶の断片小説・ショートシネマ 「ロイド」 Copyright 虹村 凌 2007-08-02 20:36:41
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