ギンガムチェックだった頃
石原ユキオ

 真っ暗な部屋の中で赤や青や緑色のLEDが光ってて、クリスマスみたいだと思ったら嬉しくなった。コンピュータはそれぞれに低いうなり声を上げていて、ときどき何かをかじるような音を立てる。お化けみたいだと思ったら、ちょっと怖いような気もした。
 男の人はわたしの服を器用に脱がせた。スカートのホックを外し、ジッパーを下げて抜き取り、リボンのゴムを広げて首から抜き、ブラウスのボタンを一つ一つ外して、ブラジャーとパンティだけにした。男の人の手は滑らかで温かくて、それ自体はまったく嫌な感じはしなかったのだけれど、自分と同じような中学生がここで何人も同じことをしたのかと思うと、嫉妬のような嫌悪感のような、よくわからない変な気持ちになった。
 男の人の耳たぶは薄くて、乾燥して粉をふいていた。舐めると粉っぽい感じがした。首は汗で塩辛かった。キスすると、刺激のないわさびみたいな味がした。静かに息をする人だった。とくに興奮した様子もなく黙々とわたしのからだを舐めたりいじったりて、コンドームをつけたおちんちんをゆっくりと中にねじ込んだ。
「痛そうなふりを、してみてくれる?」
男の人は、私の耳元に口を寄せて、少し照れたように言った。
「ふりじゃなくて本当に痛い」
と、わたしは言った。それから遠慮なく顔をしかめて、ごく自然にうめいた。ふりじゃなくて本当に痛いということは、なんだか誇らしいことのように思えた。男の人も満足げに腰を動かした。この痛みが本当じゃなくなるとわたしの価値は下がって、その頃にはきっと高校生だからそれだけで価値というか値段そのものがぐっと下がって、やがてオトナになったらタダ同然になって、誰もわたしを買わなくなるのだろうか。オトナになってまでこんなことを続けている人は相当変な人だと思うし、そうなりたくはない。価値が下がったら、はなから売り物じゃなかったようなふりをすればいいんだ、と思った。
 男の人は終わった後もわたしの頭をなでたりして、とても優しくしてくれた。粘膜が少し切れてティッシュに薄桃色がついたのを見て、嬉しそうにしていた。せめて痛いのが嘘になる頃ぐらいまでは、ここにいさせてほしいような気がした。
 家とか、学校とか、塾とか、戻りたくないと心から思った。

2005/11/12


散文(批評随筆小説等) ギンガムチェックだった頃 Copyright 石原ユキオ 2007-07-25 19:09:08
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