ホメロス「オデュッセイア」メモ 5-6
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第五歌   オデュッセウス、筏を作りカリュプソの島を出る


【人物】
ヘルメス…ゼウスの決定をカリュプソに伝えた
カリュプソ…神々の命令により、愛人オデュッセウスを送り出す
オデュッセウス…オギュギエの島を発って、故郷イタケへ向かう
ポセイドン…オデュッセウスに大波と風を送り苦しめる
レウコテエ…又の名をイノ。海の女神。海上でオデュッセウスを助ける


【概略】
 (1) カリュプソに神々の決定が伝えられる。オデュッセウス筏を作る
 (2) オデュッセウス、嵐の海で女神レウコテエに助けられる
 (3) オデュッセウス、陸を発見し上陸する

(1) カリュプソに神々の決定が伝えられる。オデュッセウス筏を作る
 神々の会議でカリュプソの所に足留めされたオデュッセウスの帰国が決まる。
 ヘルメスはカリュプソの許へ遣わされ、その決定を伝える。
 カリュプソは嘆くが、ゼウスの命なら是非もないと同意する。
 カリュプソはオデュッセウスに筏作りを勧め、五日間で筏が作られる。

(2) オデュッセウス、嵐の海で女神レウコテエに助けられる
 オデュッセウスは出発する。大熊座を左手に見つつ、東へと進み続ける。
 出発から十八日目、旅から帰ってきたポセイドンが筏を見つける。
 怒ったポセイドンは大波と大風を送ると、オデュッセウスの筏はボロボロになる。
 海の女神レウコテエがその様子を見て、オデュッセウスを憐れみ助言する。
 巨大な波が打ちつけて、筏はバラバラに砕け、オデュッセウスは海に飛び込む。

(3) オデュッセウス、陸を発見し上陸する
 アテネの加護もあって、どうにか泳ぎつづけて三日目に陸の前に着く。
 岩礁と大波に阻まれて上陸できない。
 回りこんで穏やかな河口を見つけて、そこからなんとか上陸に成功する。
 河辺にとどまるか森に入って寝るかで悩み、森を選ぶ。
 潅木の茂みにもぐり込んで、落ち葉で身を包み、オデュッセウスは眠りについた。


【メモ】
登場人物がすくなく、そのぶん情景描写が多いのが特徴的な巻である。オデュッセウスの航海の苦難が描かれる。

エオス(曙)とティトノスの臥所での目覚めが最初に描かれる。
夜明けを示す「朝のまだきに生れ指ばら色の曙の女神が姿を現す」の言い回しは作中に何度か出てくる。
エオスはアレスと床をともにしたので、アプロディテによって常に恋に身を焦がすようにされているという。
アレスとアプロディテの恋愛物語は第八歌で楽人によって歌われている。

カリュプソは愛人と引き離される自分の悲しみをオリオンの逸話と重ねる。オリオンは美丈夫で女好きで乱暴者の巨人である。
オリオンとアルテミスは愛し合ってクレタ島で暮らしていたが、それを快く思わなかったアポロンはアルテミスを欺いてオリオンを矢で射ち殺させたという。オリオンの死に方はその他にもいくつか説がある。

嵐の海で女神レウコテエがオデュッセウスに霊力の篭ったヴェールを授けるシーンは幻想的である。
女神は「助かりたくば筏を捨てて泳ぎなさい」と助言するが、オデュッセウスはこれを疑って必死に筏にしがみついている。
陸を見つけてから、なかなか上陸地点が見つからず苦労する。
上陸した後、ヴェールは海に捨てられるが、これは女神の言いつけである。女神は流れてきたヴェールを回収する。

イノ(レウコテエ)について。イノの系図を示す。




イノは元から海の女神だったわけではない。
アタマスとイノの夫婦は、あるときヘルメスから男の赤ん坊を預けられ、これを女の子として育てるよういいつかる。
この赤ん坊はゼウスとセメレとの間にできたディオニュソスであった。
すぐにこのことはヘラの知るところとなり、怒ったヘラは二人を狂わせる。
アタマスは息子レアルコスを鹿と思い、これを狩って殺してしまう。
イノはもう一人の息子メリケルテスを煮えた大釜に放り込むと、その死骸を胸に抱いて海底深く飛び込んでしまう。
それからイノは船を嵐から救う海の女神となり、船乗りたちからレウコテエ、子供はパライモンと呼ばれるようになった。
イノの母ハルモニアは調和の女神であるが、生まれた子がみな不幸な死に方をするので不幸の女神ともいわれる。




第六歌   オデュッセウス、パイエケス人の国に着く

【人物】
オデュッセウス…漂流し、パイエケス人の国に流れ着く
アテネ…ナウシカアを出かけさせ、オデュッセウスと出会うよう仕向ける
ナウシトオス…アルキノオスの父で、初代パイエケス人の王
アルキノオス…パイエケス人の王
ナウシカア…アルキノオスの娘。流浪のオデュッセウスを助ける


【概略】
 (1) ナウシカア、川へ洗濯に行く
 (2) ナウシカア、洗い場でオデュッセウスと出会い、助ける
 (3) ナウシカア、オデュッセウスを町まで案内する
 
(1) ナウシカア、川へ洗濯に行く
 アテネはアルキノオスの屋敷へ行き、ナウシカアの夢の中に現れて語りかける。
 「年頃の娘らしく、明日は夜が明けたらすぐに河へ洗濯に出かけなさい」
 ナウシカアは父アルキノオスに頼んで馬車を出してもらい、洗濯に出かける。
 洗い場で洗濯をして衣類を日に干すと、水を浴び、女中たちと毬遊びに興じる。

(2) ナウシカア、洗い場でオデュッセウスと出会い、助ける
 茂みで寝ていたオデュッセウスがその声で目を覚まし、様子を見ようと出て行く。
 潮水に苛まれたその裸身は、娘たちには見るも恐ろしく、みな逃げまどった。
 後に残ったのはナウシカア。アテネが怖れを払ったので、たじろがず彼に向き合う。
 オデュッセウスは穏やかな声で自分の苦難の旅を語り、ナウシカアに助けを乞う。
 ナウシカア、ここはパイエケス人の国であり、自分は王の娘だと自己紹介する。
 ナウシカアは騒ぐ女中たちを叱り、食べ物と飲み物と衣服を与えるように命じる。
 やがて体を清めたオデュッセウスの美丈夫ぶりに、ナウシカアは目を見張る。

(3) ナウシカア、オデュッセウスを町まで案内する
 ナウシカア「オデュッセウス、これからあなたを町まで案内します。
 しかし、住民に妙な噂をされたくないので、私たちより遅れて町に入ってください。
 町に入ったらアルキノオスの屋敷を訪ねて、私の母に助けを頼みなさい」
 そして夕方、町の前に着くと、オデュッセウスは腰をおろしてしばらく待った。


【メモ】
アルキノオスの娘ナウシカアがオデュッセウスと出会う場面である。
「風の谷のナウシカ」のキャラはこのシーンから思いつかれたとか。

ナウシカアの美しさは女神アルテミスの美しさが群を抜いた様子に例えられる。レトはその母神として描かれている。ギリシア人に普及していた伝承では、アルテミスはゼウスとレトの娘であり、アポロンとは双子とされる。

屋敷に入ったら父の前は素通りして、まず母にすがるように、とナウシカアはオデュッセウスに助言する。母アレテの好意を得ることが重要だという。


散文(批評随筆小説等) ホメロス「オデュッセイア」メモ 5-6 Copyright hon 2007-07-20 00:06:40
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