満月のよるに、さまようハート。
阿片孫郎
電話が鳴る。着信は独身独り暮らし27歳女子とわかる。
「聞いてよ、今日さ、また例のバカな上司がね、、」
そんなに上司が嫌いなら会社を辞めてしまえば?
「違うの、会社のやり方がね、、」
がんばれ! がんばるのだ!
また電話が鳴るよ。
「こんばんわ。起きてた?」
うん、まだ寝てなかったよ。
「・・・」
ダンナの話?
「・・・。そうなんだけど、、もう聞きたくない、よね」
聞くよ。
「ホント!? じつはね『やめた』って言っていたのに、、」
ああ、真実は言葉の中にはないのだよ。
そしてまた電話が鳴る。
「あ、起きてたんだ?」
電話がかかってきたから目が覚めちゃったんだよ。
「ごめんね」
まあ、いいよ。やらなくちゃいけない仕事もあるし。
「ねえ、今度いつヒマになる?」
明日もあさってもヒマだよ。でもその調子だと明日じゃなくて、今だろう?
「うーん、今ねえ、、。今かもね」
もしかして、おいしい旬の食材の料理を作りすぎてしまったとか?
「そうなのよ、だから、来る?」
じゃ、いくよ。
「ほんと?」
タクシーに乗って20分くらいでしょ。
「じゃ、待ってるね」
満月のよるには電話が鳴るのだ。
そしてせつないメールも。
どうせ、みんなセックスがしたいだけなのだ。
目が覚めたら、じゃあ、私、、と言って出かけていくのだ。
満月のよるに、まるい月を見て、私だけどうして満たされないの?と自問自答する、
気持ちはわからないでもないけど、誰かと一緒にいたいのはわかるけど。
満月のよるにはせつないハートが夜空を飛び交うのだ。
ためいきをついて、缶チューハイを飲んで、お気に入りのサイトをひとしきり巡回して、独りっきり。そしてためいき。
電話をしちゃおうかな、こんな時間だけど。
満月のよるに電話する相手がいるのなら、幸せです。
受話器の向こうにも抑えきれないハートがあるかも、なのです。