まぬがれ
錯春



 
 若い頃の私
 若い人と睦みあった が
 無知だったので
 性欲を昇華する術を持たなかった
 仕方なく、一緒に並んで座り
 土手の風はさやさやと
 耳の中の産毛を撫でながら右から左へ抜けていく
 寒い土地だから虫が出るのが遅く
 若い私と若い人は暮れるまで河原沿いに
 うずくまり
 無知だったから風通しが良く
 無知だったから膨らんでいた
 若い人のゆびは、私のゆびにそっと重なり でも
 でも、手に手をとって
 手の平をお互いの湿気で湿らすことはなかった
 無知だったから
 触れるのはくちびるだけで
 そこはいつだって火照ってるのに
 カサカサに乾いて荒れて
 


 ものすごく潔癖そうな 華奢さの
 透ける肋骨が人じゃなくて、草の茎みたいな、魚の
 ほね、みたいな
 そんな子を愛した
 行為は好きですか?と問うと
 最後にしたのは3年前で それからはね もう
 飽き飽きしちゃった?とはきけなかった
 だって若いし
 まぬがれないし 私も もう
 逃げられないし
 そういうのが
 イタイ系 とか
 えー冗談でしょ? とか
 平気に言われる ねんれいになって
 しまった
 と、おもったときにはもう遅い
 まぬがれないなら、この子がいいや
 この子で、じゃなく、この子がいいや
 やさしくして
 きずつけないで
 しばらくはしんどいのかな?
 とか、そんな切ないことは 恥ずかしく
 言えやしないから
 まぬがれないなら 押しつぶされるなんてイヤだ
 だから逆に乗っかってやった
 乗っかってやって
 案外 平気かも よかった明日に響かない
 なんて安心して溜息を 吐いたら
 なんか 勝手に涙が 出てた
 自分の下でねっころがってる この子が
 泣いていいなんて
 わたしひとことも言ってないのに

 わたしひとことも言ってないのに

 気付いたらわたしも この子も
 まぬがれない まま、なすがまま、に
 同じ洗濯機でパンツを洗い
 ハブラシを並べ
 夕飯の支度を し
 おもいだしたように 泣いて 語らって
 ああこれが
 まぬがれない ってことね
 皆、まぬがれてないのね
 わたしは 恋人という
 栓 
 を 見つけて
 風は吹き止まり うずくまり うずまいて
 あの土手の風は どこにも もう 吹いていなくて
 私の鼓膜の内側だけに 残って
 まぬがれなくなってしまった
 
 それは 便利に
 呼びかえられる、もの
 
 愛とかに





 


自由詩 まぬがれ Copyright 錯春 2007-07-05 01:51:19縦
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