CHE.R.RY(不完全版2)
円谷一

 僕は生まれた後に盲目になった
 気が付けば暗闇の中に放り込まれたという感じだ 僕には盲目になる前の鮮明な世界の記憶がある
 だから余計盲目になったことが悔しい どうして神様は僕をお選びになったのか
 僕は果てしなく長い人生に絶望して 何度も死ぬことを実行した
 僕も僕の家族も疲れ切っていた そんな時君の歌に出会った
 初めて聴いた時はあまりにも衝撃で何も体が動かなかった 一体これは何なんだろうという感じだ 僕は何回も繰り返し聴いた
 次第に僕は四六時中 夜も眠らず君の歌を一緒に歌い続け 幸福の中にいた
 僕は失望や絶望の詩ばかり書いていたが 歌のお陰で明るく希望のある詩を書くようになった
 僕はどうしても君に逢いたくなってきた しかしそんなことが叶うわけがなかった
 だが障害を持っている人達の夢を叶えさせてくれる法人の団体が存在することを母親から聞いて僕はぜひ君に逢わせてくださいとお願いした
 すると君側からOKの返事が返ってきて僕は希望に溢れた
 君に逢う日 僕は緊張して死ぬことよりも辛かった
 スタジオに呼ばれて僕はとうとう君に逢うことができた 君の第一声を聴いた時僕は涙が零れた
 あぁ 君だ 本当に僕はあの歌の主に逢うことができたんだ 神様 僕はとても辛い人生をお与えに下さられたけれども 君に逢わせて下さった 僕は世界一幸せ者です
 君も僕に涙してくれて 僕の前であの歌を生で歌ってくれた 僕は感激して大泣きしてしまった
 それからも僕と君の交流は続いた 君と何度も会うにつれてだんだん僕は自分の分からない外見を気にするようになった そして本当のところ君は僕のことを何て思っているのか気になった 僕は君に恋をしていたのだ
 僕は君の歌のような状況に立たされていてますます恋い焦がれた お喋りをする時も点字でメールを打つ時も 誘導してもらいながら桜並木を一緒に歩く時も 夜空に星が出ているよと言われてお願いをした時も 世界を交換してあなたの苦しみを分かち合いたいと言われた時も 僕は君に恋していた 好きなんだ
 僕は君に告白をしようと思った しかし盲目の僕が君に釣り合うわけが無いと痛切に感じた 皮を剥がされたように僕の心は春の冷たい夜風に滲みて僕は泣いた
 でも君の歌を聴いているうちに勇気がどんどん湧いてきて僕は決心をした
 僕は見えない目で君を見て 静かに告白した 空気の流れが 時間の流れが止まった気がした しばらくして ありがとう私も好きよ と言ってくれた
 そして僕と君は長い交際を得て結婚した 子供ができた現在 詩人として活躍しながら 僕は昔の僕の君への想いを話して 家族で幸せに暮らしている


散文(批評随筆小説等) CHE.R.RY(不完全版2) Copyright 円谷一 2007-06-28 05:29:58
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