すれ違う黒いノート
田島オスカー
黒いノートの背表紙に黒い字で黒と書く
無意味
まるで全てを手に入れたような顔をするのね、
と君は言って ひどく辛そうに笑った
一つだけ欲しいものを言ってみなさいよ、
あんたのことだもの、お金、女、ああ、男もイケるのよねあんた、
あとは何?地位とか?ダッサ、でもあんたのことだものね、
そのうち、俺は国が欲しいんだ!とか言ってもおかしくないわね、
ああ笑っちゃう、もう、なんなの、あんたみたいな人、大っ嫌いよ。
黒いノートは 君の愛用品だった
君はいつも鉛筆しか持ち歩かなくて
黒い女だと はじめは本当にそう思っていた
だから黒を見ると 目に痛かった いつも
もう、なんなの、あんたみたいな人、大っ嫌いよ。
笑っちゃう、と言いながら泣ける君の
大っ嫌いよ、も どうしてよいかわからなくて
早口に喋るなよ、と言ってみたけれど
本当は抱きしめてあげたかったよ
何でいっちゃうの、何でいっちゃうの、
嫌い、大嫌いよ、嫌い嫌い嫌い。
リフレインする 嫌い が
ぼくを包んで いろんなところをちくちく刺す
ああ三流ドラマみたいだ、と僕は思いながら
しかし意識ももう無くなってゆくのが一番悲しかったよ
ね 線香はいらないよ
一番欲しいものを結局教えてあげられなくってごめん
本当は今もわからずにいるんだ
誰よりもきっとぼくこそが その答えを教えてほしいのかもね
ほら もうすぐ君の 誕生日が来るよ
あの人の声が 聞こえた気がした
私はせめてばかりで きっと誰よりも苦しがりたかった
あの人の痛みは もう 痛くなかったのかもしれない
黒いノートはあれからずっと
使えずに中は白いままになっている