十三
深水遊脚

京阪電車で
素直に終点まで行けばよいものを
門真市でモノレールに乗り換える
車でも持っていないと
淀川の向こう側にはなかなか行かない
今日は変わった景色が見たかった
それだけのこと
もともとどこに行くか決めていなかった
車窓の景色さえ動いていればそれだけでいい
そんな旅を時々こうしてするのだ

自分の住む場所より川幅が広くなった淀川を越えて
しばらくして万博公園の太陽の塔が車窓からみえた
今日は眺めるだけにしておこう
あそこは一人で行く場所じゃないなきっと
勝手な思い込みだけれど

どこで降りても良かった
どこかで降りる必要があった
モノレールの終点の大阪空港に用はないのだから
千里中央で降りることにした
御堂筋線につながる私鉄の始発駅に向かう
なんだか箱庭のような駅周辺
それほど興味をひかれずにまっすぐ駅へ
地下の駅で1フロア上の商店街と空間でつながる構造が
それなりに面白かった
電車はすぐ地上に出たが
やたら高いマンションと
交通量の多い道路ばかりで
そんなに車窓の風景は魅力的でない

新大阪の次の駅で気まぐれを起こし
阪急電車に乗り換える
梅田まで2駅の阪急電車も
十三で降りてしまう
何やってるんだか
よほど梅田が嫌いらしい
今日だけの話だけれど

歓楽街のイメージの強かった十三だけれど
いざ降りてみるといろんな人がいた
学習塾へ向かう子どもとそれを誘導するおっちゃん
台所と直結しているかのようなレトロな商店街では
買い物をするおばちゃんとお店の人との会話がひびく
何人かは子供連れで時々子どものほうが私に興味を示す
おもしろい顔を作ってあげたらその子も真似してみせる
自転車に乗ってローライズのデニムがずり下がり
尻の割れ目がはっきりわかるくらいの女の子
さすがに色気もなにもあったもんじゃない
こんなもんかと苦笑してやり過ごす
ともあれこの猥雑さはうらやましい
時々こういう賑やかさのなかに自分をおきたくなる
そういう街は歓楽街であることが多い
都合の悪い部分をかくさないでともにいることで
おたがいにちょうど良い距離を知り
うまくやってきたのだろう
いろいろ問題を抱えてはいるのだろうけれど

暮らす
そのことの重みや充実感が
充満しているようにみえた
一人暮らしの面倒なことに
あれこれ取り組む力の源にはなったか
こんなことも旅の収穫なのだ
必ずしも遠くに行く必要はないんだ
さらに川幅が大きくなった淀川を超え
梅田、淀屋橋と辿って家に辿りつく
冷蔵庫の野菜を使ってカレーを作る
ルーの箱に書いてある通りに作った
こだわらないチキンカレー
久しぶりにちゃんと作った料理だった


未詩・独白 十三 Copyright 深水遊脚 2007-06-11 22:07:12
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