マンゴウ
まほし

スーパーマーケットの入口で
マンゴウを手にした瞬間、
子宮が微かに痙攣したのを
見逃すことができなかった
雨の、せいかもしれない
外からは背すじを正すような
水しぶきが響いている


とおい五月に
こんな風に滝に打たれるように
マンゴウの日本画を観た
「百一才」
と、右下に記された絵は
女流画家の小倉遊亀さんが
その年でほんとうに描いたものだ


黒塗りのお盆に
赤や橙や萌黄色の
まあるいマンゴウが
七つほど重々しく転がっている
その姿は
どこかあっけらかんとしていて
それでいて生命力にみなぎっていて
百一才という年輪の上に
実らせた魂、
まっすぐな瞳で問いかけてくる


「一枚の葉っぱが手に入ったら、
宇宙全体が手に入ります」*
入門した時からその言葉のままに
日本の風土の恵みを
絵の具にとかし、墨をすり、
細い筆で、画布に挑み続けた、
遊亀さん
どうしたら無心に描くことができますか
古木から萌えるみずみずしい緑が
大空を抱こうと伸びゆくように


まだ青い
卵のようなマンゴウは
ふるえる掌に
それでも確かなものを伝えて
黒髪からしたたる潤いを
芳醇なかおりに染めていく
買い物かごにひとつ、落としていこう
わたしもまだまだ
描きたい宇宙があるのだから










自由詩 マンゴウ Copyright まほし 2007-05-31 22:27:27
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